短編小説 | ナノ
「よおナマエ。久しぶりだな。とりあえずこれでも食うか? ヨウカンだ。うまいぞこれ」
「………あのねぇデンジ。つっこませてもらうとここはわたしの家。そして何で普通に部屋にいるの?あとそのヨウカン隠しといたはずなんだけど」
「細かいことは気にすんな」
「全然細かくないから」

わたしの家に堂々と侵入してヨウカンを貪っているこの男はデンジ。
シンオウ地方最強のジムリーダーでありながら中身はただのニートである。

「で、何でうちにいるわけ?」
「話すと長いから話したくない。あ、そこのみかんとってくれ」
「さっさと話しなさいよこのニート」

置いてあったみかんをデンジに投げつけた。「食べ物を投げるんじゃねえよ」といいながらぱしっとキャッチされた。
チッ、あの小綺麗な顔に当たれば面白かったのに。

「で、なんでいるのよ?」
「めんどくせ……追い出されたんだよオーバに」
「デンジの家から?」
「いやまーこないだジム改造に失敗して全壊させちまってよ。んでオーバの家に転がり込んだら『俺の家に来る前にジム直してこい!』って怒られてな」
「オーバが正論すぎてなんも言えないよ」
「んで面倒だからナマエの家に上がったって訳だ」
「ジム直してこい!」
「大丈夫だ。それはオーバに押し付け……頼んどいたからな」
「オーバが不憫すぎて泣きそうだよ。よく了解してくれたね」
「電話して一方的に言って切ったからな」

こいつは本当に人に迷惑をかけるために生まれてきたのではないだろうか。
なんでナギサのスターとか言われてるんだろう。

「わたしだって今日は忙しいの! 邪魔しないでよね!」
「なにお前に忙しい日なんてあったのか」
「デンジにだけは言われたくないよ。お雛様片付けなきゃいけないの」
「お雛様? 今日は3月4日だぞしまうの早くないか?」
「お雛様は早くしまわないと行き遅れるんだよ。呪いかかっちゃうんだよ」

 お雛様を早くしまわないと行き遅れるという言い伝え(?)がある。
 別に信じているわけではないが、……いや信じてる。行き遅れるのは嫌だし。結婚したいもの。

「なんだナマエ彼氏いんのかよ」
「いないけど……うるさいなー! 言い伝え信じたっていいじゃない!」

 なぜか急に不機嫌になったデンジにわたしは怒った。あんたみたいに異性に困らないわけじゃないのよこっちは!

「だからデンジ邪魔しな……」
「よしお前もジムの修理手伝いにこい」
「人のはなし聞いてた!?」
「手伝いに来てくれたらケーキ奢ってやる」
「え……」

 デンジの口から奢ってやるだなんて。はじめて聞いたかもしれない。なにがあったんだ。

「と、とりあえずお雛様片付け終わったら……」
「その間にオレの気が変わるぞ」
「さきにジムにいかせていただきます!」

 デンジはいつもからは想像できないようなすばやい動きで立ち上がると、「行くぞ」といいわたしの手を引いて家から出た。
 結局ジムの修理には1週間以上かかってしまいわたしがお雛様を片付けられたのはだいぶ先のこととなってしまった。
 わたしのお先は真っ暗である。





譲る気はない。
 (前サイトから)
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誰よりも女々しいのはデンジ
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