短編小説 | ナノ
※夢主はランスの部下設定


「…………」


 ダメだ。
 息をするんじゃない。
 空気と一体になるんだ。
 わたしは空気。わたしは空気……
 なぜいまナマエがこのような事をつぶやいているのか。
 それは数分前の会話にさかのぼる……


* * *


 ナマエは仲のいいしたっぱと廊下で仕事をさぼりながら喋っていた。

「ランス様ってさあ、弱味とかないよねー。恥ずかしい話とか失敗しちゃった話とかも聞いたことないし。なんかいかにも完璧です、みたいな?」
「ひゃひゃひゃ! 幹部様ともなればそうなるんじゃねえの?」
「でもさー君のとこの幹部様は欠点だらけじゃん」
「お前それラムダ様に失礼だぞ」
「いやだっていっつもタバコすってアテナ様に怒られてるし、アポロ様には書類の提出が遅いって怒られてるし、ドガースしか手持ちいないし」
「最後のは何なんだよ。弱点なのか?」
「エスパータイプが来たら一瞬で終わりだし。考えれば考えるほどわかんないよー!ランス様の弱味って本当、なんなんだろーね?」
「ラムダ様とおもに毒タイプへの罵倒は聞かなかったことにしてやる。仮にもラムダ様が俺様の上司であることを忘れんじゃえ。……でも確かに気になるな。ランス様の弱味」「でしょー! そうだ! ランス様の部屋にこっそりはいりこんで弱味を見つけてやるっていうのはどう!?」
「うっわお前恐れってものを知らないのか」
「崇め称えなさい!このナマエ様が誰もなしえなかったことをしてあげるわ!」
「ひゃひゃひゃ! 俺様はナマエのそういうところが大好きだぜ」
「ありがとよ親友!」
「まあ失敗しても俺様は関与しねえがな。ほらさっさと逝ってこい」
「あたしはあんたのそういうところが大っ嫌いだよ」
「ひゃひゃひゃ !ありがとよ親友! ま、骨ぐらいは拾ってやるよ」
「失敗することが前提か! みてろよチクショー絶対成功させてやるかんな!」

 そんな他愛のない雑談をしていたときはあんな場面を目撃してしまうとはそのときのナマエは想像もしていなかった。


* * *


 そして冒頭に至る。

「やはりこっち……いえ、この向きのほうがいいですかね」

《耐えろっ……! 笑ったら敗けだ! 笑ったらっ………》

 今の状況を説明しよう。
 いまナマエはランスの部屋にいる。
 部屋への侵入は成功、そしてそばのクローゼットの中に潜り込み、ランスが部屋に帰ってくるのを待っていた。

《なんだろう…ランス様の弱味って………帽子の中が実は……禿だったり!?》

 クローゼットの中でいろいろな妄想をしてナマエはこの状況を楽しんでいた。その後ランスが部屋に戻り……
 ついにナマエはランスの弱味を発見することができた。
 しかし弱味を見つけたところまではよかった。だがナマエはまだランスの部屋から出られずにいる。なぜかというとランスの部屋から出る暇がないからだ。
 クローゼットの目の前にランスがいるため、出ようにも出れない。そんな状況がしばらく続いた。
 そういえばまだランスの弱味について説明していなかった。

 ナマエが知ってしまったランスの弱味、それは彼がいま行っている行動にあった。

「わたしはロケット団でもっとも冷酷と呼ばれた男………ここで前を向いたほうが……?」

《ぐあああ! やばい吹き出す!》

 そう、いまランスは。
 あのセリフと共に行うポーズの練習をしていた。しかも等身大の鏡の前で行うくらい真剣に。

「やはり後ろを向いたほうがカッコいいですかね…?」

《そのセリフの時点でもう無理だ! ぷっ……も…むり……》

 ものすごく真剣にポーズをきめる自分の上司を笑わずにはいられない。
 だが、ここで笑うと言うことは、笑う=居場所がばれる=死ぬという方程式の完成を意味する。
 それを回避するためにナマエは必死に笑いを堪えていた。だが、ナマエがクローゼットの中にいることを知らないランスは仕事中にも見せたことがないくらいの真顔で。

「やはり後ろを向いて振り向くのがいいですね」

 そうランスは言うと完全にポーズをきめて言いはなった。

「わたしはロケット団でもっとも冷酷と呼ばれた男!」

 備考だがそのときのランスの表情は完全に"どや顔"であった。

《……も、げんかい》


「ぶっはあ!」
「!?」

 わたしは盛大に吹き出すと、その弾みでクローゼットの外に転がり落ちてしまった。
 あああ……やってしまった。思わず薄ら笑いを浮かべながら顔をあげる。すると、ランス様のめちゃくちゃ固まった顔と目があった。気まずい。ものすごく気まずい。どうしようこれは確実に殺られる。
 そんなことをぐるぐると考えているとランス様が小さく口を開いた。

「………ナマエいつからそこにいたんですか?」
「えっ……と、ランス様がこの部屋に帰ってくる前からで……あ、はは」
「見ましたね?」
「い、いえなにも見てません!」
「ポーズはどちらのほうがいいと思いますか?」
「わたしは最後のポーズでいいと思い…………あ」
「…………」
「…………」
「…………記憶を消すまで殴るしかないようですね」

 ランスが腰のボールに手をかけるのと、ナマエが部屋から飛び出していくのはほぼ同時だった。





Cosa fatta capo ha
(ゴルバット、はかいこうせん)(ランス様それは某チートの特権で………ぎゃああああ!)(ひゃひゃひゃ、やっぱりこうなったか)
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