橙色が貴方を拐う

やみくもに暗闇の中を走る。

自分が何処にいて、何処へ向かっているかは、分からない。
ただ、行かなくちゃという強い焦燥感にかられて。

どれくらい走ったか、立ち止まり辺りを見回しても広がるのは吸い込まれそうなほどの暗闇。
それでも、私は行かなくちゃいけない。
流れる汗を拭い、震える膝に力を込めて再び駆け出す。
……早くしないと……早く、しないと……?

その時、背後で突然一発の銃声が鳴り響いた。
反射的に振り返ると、闇から景色が一変。
闇を食いつくす勢いで、橙色の景色が目の前に広がる。
突き刺すような眩しさに、思わず目をぎゅっと閉じた。


瞼を刺すほどの光に慣れてきた頃、恐々と目を開く。

目の前に見えたのは寂れた鉄骨と穴の開いたトタンの屋根……どこかの廃工場のようだ。

天井付近の割れた窓から射す橙色は夕日だった。

夕日が照らす向こうに黒い布の塊が見えた。

目を凝らして見るとそれは人だった。
そしてそれは……よく、知っている……。

「ジンさん!!」

弾かれたように立ち上がり、足をもつれさせながらも駆け寄る。
膝を付き、私に背を向けて倒れる彼を揺する。
その時、ヌメリとした生温かい何かが手に触れた。恐る恐る見るとそれは、赤黒い液体。

「っ……!?」

一瞬驚き、体を後ろへ反らす。
だが、それはジンの血だということすぐに理解した。

ジンを抱え、へたり込んだ私の太ももに彼の頭を乗せる。

ジワリと血が広がる感覚がする。
血の海に綺麗な銀糸の髪が広がる。

一体、なんで、どうして……。

視線を巡らすと、彼の手には愛銃が力なく握られていた。

状況を理解するには十分すぎた。

「……ジンさん? もう夕方、ですよ? 早く、起きない、と、ちゅー、しちゃいま、すよっ……」

色のない頬を撫で、地面の広がる髪を掬う。

分かっている、彼はもう……。

頭では理解できても、心が追いつかない。

「ジンさん……どうして……っ」

涙がポタリと、彼の頬へ一滴落ち、滑り落ちた。

まるで彼が泣いているように見え、思わずその体をきつく掻き抱いた。

そして、悲痛な叫び声は風に流された。





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