待ち合わせ場所は、人気のない路地裏。
髪から滴るの水もそのままに薄暗い道を歩く。
視界に映った黒いコートの裾を辿るように顔を上げて、その表情を確認して、……ほら、やっぱり。と茜は自嘲気味に笑う。
幸せな時間は、もうすぐ終わる。
降りしきる雨が、そう予感させた。
「ごめん、待った?」
何も知らないフリをして、壁に凭れかかって自分を待つ恋人に声をかけた。
恋人……ジンはゆらりと壁から背を離し、茜の方を見る。
「恋人ごっこは、終わりだ」
「……そっか。それで?わたしを始末する?」
残酷な言葉のはずなのに、何故かすぅっと飲み込めてしまった。
「あぁ」
「うん……何となく、そうかなって思ってた」
まるで、世間話をするかのように繰り広げられる淡々とした会話。
茜の口元には笑みも浮かんでいる。
ジンは懐から愛銃を取り出し、その銃口を彼女に向ける。
「せめてもの情けだ。一瞬で楽にしてやる」
「優しいのね。……でも、狙うなら心臓を狙って。ジンさんの弾丸でわたしを射抜いて」
一歩彼に近づくと、その銃口を掴み、自分の左胸へと押し当てた。
「お前と過ごした日々、悪くはなかった」
「それは良かった。例え偽りの関係でも、わたしは楽しかったよ。ありがとう」
茜の微笑みは儚く美しかった。
「ジンさん、最期に一つ」
銃口をきつく握りしめ、いつもと同じ表情のジンの顔を見つめる。
「……何だ」
「あなたを、愛してます、ずっと、これからも」
頬に伝う雫は、雨かはたまた涙か分からなかった。
かちゃりと自分とジンを繋ぐ銃が揺れる。
引き金に掛けられた指は……。
おわり。