「おい、大丈夫か?」
ウォッカの声に頷く彼女だが、足元がおぼつかない。
たまたま任務終わりで2人だけだったので、今日は外食をしようということになった。
そこでウォッカが飲むというので、それに付き合った彼女。
しかし少しだけのはずだったが、隣で次々とグラスを空ける彼につられて、ついつい飲み過ぎてしまったようだ。
歩こうとするも、平衡感覚がほぼ無いも同然で、自分でも気付かないうちに身体が傾く。
「おっと。危ねぇ」
ウォッカが、ふらついた彼女の身体を受け止めた。
「ごめん、なさい。ウォッカさん。でも大丈夫だから…」
「大丈夫じゃねぇ奴ほどそう言うんだよ。ほら、乗れ」
ウォッカは彼女の前にしゃがみこんで、背中を向けた。
向けられた広い背中に少し戸惑ったが、素直に厚意に甘えることにした。
「前から思ってたんだけどよ、あんた、軽すぎねぇか?」
「……お世辞はいいです……」
「いや、背中に当たってる柔らけぇモンの割に」
「えっ、ちょ、変なこと言わないでください!」
彼女が慌てたようにバッと身体を離すと、ウォッカが少しふらつく。
「危ねぇからあんま動くな」
「ウォッカさんのせいでしょーが……」
しばらく身体を離していたが、その体勢が辛くなり、観念してウォッカの背中に身体を預けることにした彼女。
ウォッカの少し高めの体温と、心地良い揺れ、そしてアルコールのせいで瞼がどんどん重くなる。
「眠かったら寝ていいからな」
その声は辛うじて耳に残っていた。しかし、返事をしたかどうかは憶えていない。
目覚めると、自宅のベッドの中にいることに気付く。
服は昨日のままだった。
(確かウォッカさんと夕食の後、背負われて帰ったような……)
ふと、耳元に寝息を感じて振り返ると、いつもの帽子とサングラスを外したウォッカの顔がアップで視界に入った。
「っ……!」
驚いて起き上がろうとしたが、ウォッカの腕がそれを阻止した。
「よぉ、おはようさん」
普段のハスキーボイスが、寝起きでさらに拍車がかかり、彼女の鼓膜をくすぐる。
「おはよう、ございます……。というか…なんで、ウォッカさんがベッドの中に……」
「悪ぃな。あんたの寝顔を見てたら、眠くなったから寝ちまった。
……何かされたかと思ったか?」
ウォッカの手が彼女の頬を撫でる。
「あ、いや……服は着てたので、大丈夫かなって。
それに、ウォッカさんはそんな乱暴なことはしなさそうですし」
「当たり前だろ。惚れた相手にそんなマネはしねぇよ」
ウォッカは彼女の額に、自らの額をこつんと当てる。
「安心しろよ。抱く時はちゃんと白面の時にしてやるよ」
不敵に笑うウォッカ。
発言が発言なだけに、思わず顔を背けようとするも彼の両手にそれを阻止された。
「おっと、逃がさねぇぜ?恥ずかしがってるあんたの顔、もっと俺に見せろよ」
「……はうぅ、」
何とか言葉をかけようと思ったが、言葉にならずじまいで最終的にはウォッカに強く抱きしめられる形になった。
「……少しだけ、このままでいさせてくんねぇか?」
急にウォッカの声のトーンが真面目になった。
「ウォッカさん……」
その落差に少し戸惑うも、ウォッカの腕の中に大人しく収まる彼女。
その腕の暖かさが心にじんわりと沁みていく。
「……幸せ、か」
自分たちのような悪人が、幸せになりたいなんて思ってない。
でも、それでも誰かを好きになる気持ちは止められない。
でも今は、今だけは好きな人と過ごす甘い時間を許してほしい。
ウォッカのこぼした言葉に、背中に回す手にギュッと力を込めた彼女だった。
おわり
bkm