橙と赤が混ざり合う灯りが部屋を染め上げる。
その中でわたしは徐にハサミを手に取り、姿見の前に立つ。
あつい……。
長く伸びた前髪を掴み、一思いにハサミを入れた。
ザリザリと音を鳴らして前髪を切った。
「あ……」
鏡を見て間抜けな声が出た。
「切りすぎた」
前髪は眉の上、額の半分まで切ってしまった。
さっきよりも、橙と赤の灯りが強くなる。
あぁ……あつい。
ふと、テーブルに置いてある写真に目をやる。
どうしても切りすぎた前髪が気になる。
前髪を弄りながら、写真を眺めた。
彼は写真嫌いで、彼が写っているのはこれしかない。
気難しそう、というより仏頂面でそっぽを向いている彼。その横のわたしは幸せそうに笑っている。
でも、わたしはもう写真のようには笑えない。
前髪を弄る手を止めた。
くるしい。
ガシャンとキッチンの方で何か、たぶんグラスが割れた音がした。
橙と赤の灯り……燃え盛る炎。
わたしの逃げ場はもうない。
これが貴方の出した答えなら、わたしは甘んじて受け入れよう。
写真をフレームから出して、胸に抱いた。
そしてそのまま目を閉じる。
貴方と過ごした日々は、わたしの大切な思い出。
貴方の腕の中で死ねないのが、唯一の心残りかな。
それでも、貴方が好きでした。
「……ジンさん」
ー……茜……ー
消えゆく意識の中、わたしの名前を呼んだのは、だれ……?
おわり
bkm