任務終わり、今日は珍しくウォッカと飲みに出掛ける茜。
しかし、バーに着いて飲み物を頼んでから、茜は大きなため息をついた。
「何だよ辛気臭せぇな。俺と飲むのが不満か?」
隣に座るウォッカが、怪訝な表情をしながら言った。
「ウォッカさん」
「なんだ、どうしたよ?」
「ジンさんが尊すぎてつらい」
「はぁ?」
突然の茜の言葉にウォッカはそれ以上反応できなかった。
出されたカクテルの氷がカランと音を立てる。
茜がジンに想いを寄せているのは、何となく知っていた。
だが、「好き」と言うのならまだ理解できるが、尊いという言葉は何かが違う気がする。
「わかるかなー、何かこう、この、尊い感じ?」
「いや、わかんねぇよ。何で同じ言葉重ねて説明しようとしてんだ」
「いや、だからね……」
「あーもうちょっと待ってろ」
これ以上話しても埒が明かないと思ったらしく、ウォッカはスマホを手にとった。
「これか、尊い。えーと、@価値が高い」
「まぁあんな銀髪でかっこいい人稀少だし?高いよね、価値は。あと身長も」
ウォッカが読み上げる意味に茜は、該当するジンの特徴をいちいち照らし合わせる。
「A身分が高い、敬うべき」
「それは組織の幹部だし。敬わないと」
他の意味は、と確認するウォッカの目に、もってこいな言葉が見えた。
「B大切、貴重なもの」
「まぁ、うん……それはね、確かに。全部大切だし」
少しだけ茜の反応が変わった。今までの少しふざけたような態度とは違い、頬を赤らめ少しだけ目が潤んでいる様に見える。
その瞳を見たとき、不意に懐かしさを覚えた。
『三郎さん』
大切な人を想う瞳。
過去に自分に向けられたそれを思い出した。
もう昔の話だ。とその思い出を再び頭の片隅にしまうウォッカ。
「大切ならちゃんと伝えねぇとな、そう思ってるってことを」
おそらく、いくら伝えても伝えきれないであろうその想い。伝えることで、相手とその想いを共有することによって絆が生まれる。
「うん。でもね、大切だから辛いんだよねー。大切すぎてさー」
「まぁ、好きって言葉じゃ足りねぇかもな」
だから尊いか。そう言ってウォッカはスマホをしまった。
「ウォッカさん、ありがとう」
「いいってことよ」
二人で笑い合って、それから出された料理と酒を楽しむ。
茜は改めてジンへの想いを自覚したのだった。なにより少し気分が晴れやかになったのは、ウォッカのおかげかもしれない。
そんな彼女が酔い潰れて寝てしまうまで、あと数十分。
それを見兼ねてウォッカがジンを呼ぶ。彼が来るまで、あと………。
おわり
bkm