「おい、本当に大丈夫か?」
沖矢さんの声に頷くけど、何か足元がおぼつかない。
ジンさんは何やら、安室さんに用があるみたいで留守。
沖矢さんと2人だけだったから、今日は外食をしようということにした。
そこで沖矢さんが少し飲むというので、それに付き合ったんだ。
でも、少しだけのはずが甘いお酒につられて、ついつい飲み過ぎてしまった。
歩こうとするけど平衡感覚がほぼ無いも同然で、自分でも気付かないうちに身体が傾いていた。
「危ない」
沖矢さんがわたしの身体を受け止めてくれた。
「ごめんなさい、沖矢さん。でも大丈夫…」
「大丈夫じゃない奴ほどそう言う。ほら、背中に乗って」
向けられた広い背中に少し戸惑ったけど、素直に厚意に甘えることにした。
「軽いな」
「お世辞はいいです……」
「いや、背中に当たってる柔らかいモノの割には」
「えっ、ちょ、変なこと言わないでよ!」
突然何を言い出すかと思えば、わたしが少し身体を離すと、沖矢さんが少しふらつく。……珍しい。
「危ないから動かないで」
「沖矢さんのせいでしょーが!」
しばらく身体を離してたけど、その体勢が辛くなって、観念して沖矢さんの背中に身体を預ける。
「赤井さんの背中あったかい」
小声で呟く。今は沖矢さんだけど、赤井さんでもあるから。
赤井さんの体温と、心地良い揺れ、そしてアルコールのせいで瞼がどんどん重くなる。
「眠かったら寝ていい」
その声は辛うじて耳に残っていた。しかし、返事をしたかどうかは憶えていない。
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目覚めると、自室のベッドの中にいることに気付く。服は昨日のままだった。
確か沖矢さんと夕食の後、背負われて帰って……。
ふと、耳元に寝息を感じて、振り返ると赤井さんの顔のアップがあった。
沖矢さんではなく、赤井さん。
「っ……!」
驚いて起き上がろうとしたが、赤井さんの腕がそれを阻止した。
「お目覚めかな?お嬢さん」
何というイケボ……。朝からキュン死させる気か!!
「お、おはようございます……?
というか、赤井さん何で?沖矢さんじゃなかったっけ?」
「変装したまま寝るのは、些か寝心地が悪い」
「そ、そうですか……」
徐に赤井さんの手がわたしの髪を滑る。
ただそれだけの仕草なのに、色っぽい。
思わず見とれていたら、フッと笑われた。
「赤井さん?」
「もしかしたら今度こそ、ジンに殺されるかもな」
「えっ!?」
「おはよう、茜」
その瞬間、わたしのおでこに柔らかい感触が……。
「あ、あか、赤井、さん……!?」
呆気にとられていると、赤井さんはすでにベッドから出て部屋を後にしようとしていた。
ドアノブに手を掛けたところで、赤井さんはわたしの方を見て、シィーと人差し指を唇に当てて、部屋を出ていった。
本当に心臓に悪い人。
このことは墓場まで持っていこう。
おわり
bkm