ポアロにて。
この日は、珍しくお客さんがいなかった。
いつも安室さん狙いのJKがいっぱいいるのに。
まぁ平日だし?そういう時もあるよね。
「安室さんてさ」
「何ですか?」
わたしは常々考えていたことがある。
それを今、安室さんと二人きりの時に聞いてみようと思う!
「亀甲縛りできます?」
「……あなたという人は」
案の定、安室さんは深いため息をついて、ジト目でわたしを見る。
だが、そんな視線もご褒美だワッショイ!
「だって気になるんですもん」
「あなたは今すぐコンビニで、"品"を買ってきたほうがいい」
そんなことを言いながらも、安室さんはオレンジジュースのおかわりを出してくれる。
「間に合ってまーす。
で、で、どうなんですか?できる?できない?」
ジュースはありがたく頂く。
うん。おいしい。
「さぁ、やったことがないので分かりませんね」
まぁ、普通はそうですよねー。
あっさりできるって言われたら、ちょっと怖い。
「でも、安室さんならすんなりできそう。てか、絶対できる」
「何ですかその自信は」
「安室さんは器用ですからね!
何なら世間話とかしながらさらっとやりそう。
何かこう、『知ってます?亀甲縛りというのはどうたらこうたら』とか言いながら縛りそう」
もっと言うと、たまには趣向を変えてみませんか?とか言って笑顔で縄を持ってきそう。
何か、様になるな……ぐふふ。
「……茜さんの中の僕は一体どうなってるんだ……」
「それから、ジンさんもきっと出来るよ。でも、ジンさんはそんなまどろっこしい事しなさそう。まぁ、後が怖いから聞かないけど」
たぶんジンさんは縛るというより、首を絞めそう……。
想像しただけでも、こわっ!でも、それが愛情表現だったり?
「ジンならきつく縛り上げますね。確実に」
ですよねー。
「そもそも、亀甲縛りってどうやってやるんだろ……」
ポチポチとスマホで検索してみよ……あ、
「安室さん、エロ画像いっぱい出てきた」
「何をしてるんですか。あなたは。
あと、見せなくていいです」
安室さんはふいっと、そっぽを向いた。
何か可愛いな!
でも、縛り方は分からない。
あれは一体どうなってあぁなるのだろう。
「よし!
沖矢さんに教えてもらおう!!
ということで、わたし帰ります!ごちそうさまでした!」
「ありがとうございました。
………全く、嵐みたいな人だ」
お代を置いてわたしは、ポアロを後にした。
その後、わたしは工藤邸へ帰って沖矢さん……もとい、赤井さんに亀甲縛りを教えてもらった。
あ、ちゃんとトルソーでね。
それにしても赤井さん、流れるような手捌きでトルソーを縛り上げるからびっくりよね。
あれはわたしにはできん。
「というか、実演してくれる赤井さんて……」
「知りたいと言ったのは茜だぞ」
「いや、うん。そうですけど……。まさか本当にやってくれるなんて」
「何なら、今度は茜を縛ってやってもいいぞ」
「え、遠慮しまーす」
あはは…と笑いながら縛られたトルソーを見る。
「でも、赤井さん手慣れてるよね。
もしかしてやったことあるとか?」
「さぁ、どうだろうな」
おぉふ……沖矢さんの姿で、開眼されると心臓に悪い。
「お前ら何をしてる」
ここでジンさんの登場……。
まずい、これはかーなーり、まずい。
「い、いやぁ、何でもないよー」
とっさにトルソーを隠そうとするも、間に合わずジンさんに見つかった。
「何だこれは」
「……赤井さんの亀甲縛り講座?」
「茜がどうしても知りたいと言うから、教えてやっただけだ」
「ほぉ……。
そんなに縛られたいなら縛ってやるよ」
ジンさんの目がギラリと光る。
あ、これダメなやつだ。
赤井さんに助けを求めようとすると、
「そういえば、ジョディと会う約束があった。
まぁ、頑張れよ」
と言って赤井さんはわたしの肩をポン、と叩いて部屋を出る。
うそ、だろ?
「赤井さん待って、わたしを置いていかないで!」
部屋のドアはわたしの前で、バタンと虚しく閉まった。
「ジ、ジンさん、これはですね……ひぃっ」
ギギギとブリキのおもちゃ如く振り向くと、ジンさんはトルソーから縄を取ったようでそれを手に持ち、めっちゃ凶悪な笑顔でこちらを見ている。
ヤバい。こえぇぇ……。
「お前に、こんな趣味があったとはな」
「な、ないです!わたしはMじゃない!!
縄を持ってジリジリくるなーー!」
ここから、わたしとジンさんのリアル鬼ごっこが始まったのだった。
おわり
bkm