「……んー……ん」
「どうした」
眠れずに何度も寝返りを打っていたら、ジンさんに声をかけられた。
「…あ、ごめん。起こしちゃった?」
「元々寝てねぇから気にするな」
「いや、そこは寝てて」
思わず本音がでてしまった。
「俺のことはいい。
眠れねぇのか?」
「…うん。
何かこう、嫌な記憶がぐるぐるしちゃって……」
たまに、過去の苦い出来事が頭を過ることがある。
それから、あーすれば良かったとか、なんでそんな事したのか?どうすればよかったのか?
とかいろいろ、ぐるぐる考えて眠れない。
「そうか」
ジンさんは短い返事だけしたと思ったら、不意に抱きしめられた。
ジンさんの腕の中にすっぽりと収まる。
「ジンさん…?」
「じっとしてろ」
言葉とは裏腹に優しい声が、鼓膜を振るわせる。
わたしはぴたっとジンさん胸に頭を寄せた。
あ、心臓の音が聞こえる。
ジンさんの体温と心音が心地よくて、ぐるぐるとしていた嫌な思い出が徐々に薄れてくる。
さらに、ジンさんは背中をトントンと一定のリズムで叩く。
「ふふ…」
なんだかくすぐったい感覚に、思わず笑ってしまった。
「なんだ?」
「ジンさん、優しいなって思って」
「…フン。いつまでも俺の安眠を邪魔されたら堪ったもんじゃねぇからな」
「寝てないのに?」
「黙れ」
わたしの唇は激しく塞がれました。
ジンさんの唇によって。
息も出来ないくらいに激しく。
でも、蕩けるように優しいキス。
だんだん酸欠なのか、酔わされているのか、はたまた両方なのか頭がくらくらしてきたところで唇は解放された。
「間抜け面だな」
「なっ…」
間抜け面ってひどくない!?
って思ってたんだけど……。
「お前に辛気くせぇ面は似合わねぇんだよ」
コツンとおでことおでこがくっついて、ジンさんと目が合う。
「俺が傍にいてやる。
だからお前は、間抜け面晒してさっさと寝ろ」
「ジンさん……」
ジンさんはちゅ、とおでこにキスを一つしてくれて、ぎゅっとわたしを強く抱きしめた。
わたしもジンさんの背中に手を回して、お互いに抱きしめ合って眠りに落ちる。
……てか、間抜け面晒すって……。
でも、今度は幸せな夢が見れそう。
寝落ちる前に聞こえたおやすみの声は、夢か現か……。
おわり
bkm