これはまだ元の世界に居たときの話。
寒い冬の夜。
わたしがお風呂から上がると、ジンさんがリビングにいた。
「お風呂空きましたよー」
「ああ」
読んでいた本から顔を上げてわたしを見る。
何を読んでたんだろう。
……うん。難しそうなタイトル。
家にそんな本あったのか……。
「おい」
「え?あ、はい」
不意にジンさんに声をかけられた。な、何?
「ここに座れ」
「と、隣ですか?」
「早くしろ」
「は、はいぃ!」
わたしは言われたままジンの隣に座った。
いや、ジンさんおっかないんですけど!
「手を出せ」
「へ?」
て?て、って手だよね?
どっちの?
良く分からないけど早くしないと怒られそうだから、両方差し出した。
「荒れてるな…」
ジンさんはわたしの左手をそっと触ってきた。
「え、ま、まぁ…冬だし、お湯使うしで指先はどうしても荒れちゃうんですよねー」
え?なんでわたしジンさんに手を触られるの??
いや、ちょっとパニックわたし。
「待ってろ」
そう言ってジンさんは気だるそうにどこかに行った。
一体なんなの?え?
ふとジンさんに触れられた手を見る。
ジンさんの手はちょっと冷たかったけど、お風呂上がりのわたしからしたら心地よかった。
それに、やっぱり男の人の手だなぁと。
やっぱりときめいてしまう。
そんなことを思ってたら、ジンさんが戻ってきた。
ん?何か手に持ってる。
見たことのある青くて丸い缶……ニ〇アの缶!
ジンさんはわたしの隣に座り、缶の蓋を開けた。
「……手」
「あ、はい」
クリームを適量、指で掬ってわたしの手の甲に付けてきた。
そして、何とジンさんは手を包み込んでクリームを馴染ませる。
うおぉぉおお!何だなんだこのシチュエーションは!?
あのジンさんがクリームを塗ってくれてるだと?
惚れてまうやろーー!
違った。もう惚れてます。
「ジ、ジンさん」
「黙ってろ」
「はい」
優しく丁寧な手つきでクリームを塗られる。
手の甲に手のひら、指の一本一本。
荒れてる指先は念入りに。
どうしよう。
ジンさんが優しすぎる。
え?本当にコナンのジンさん?頭に鉛弾ぶちこむジンさんなの?
目の前のジンさんを見つめる。
「何だ」
「あ、いや。
ジンさん優しいなって思って」
「フン……気まぐれだ」
その時、たしかにジンさんの口許は笑っていた。
おわり
bkm