企画せんよ…う?


そろそろ本格的に駄目になってきた…。何をしても駄目、何をしても駄目、もうこんなのほとほとだよ。ほとほとだよ、こんなのもう、何しろね、っもう、ね。やなの。もうやになっちゃう。何これ。それだけ私に適性ないって事?それだけ私が駄目人間ですかって言う事なの?ねぇちょっと。大体ね、最初から作るにしてもとてつもなく途方のない労力が必要って事でね。あぁ、ちょっと待ってよ言わないでよ。分かってるんだからこう言うの逃げだって甘えだって。でも言わせて頂戴よ。もうやだよこんなの。ちょっと落胆と言うか絶望を知ったよ!この通知を見て!なんだよもう、何なんだよ全くもう!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!こう言った事が恐れとか舐めとか分かってるんだけどね!だからと言って他人に言われても何?ってな感じだけどさ!本当何?ってな感じだけどさ!そもそも、私を採用しなかったアイツが悪いんだ!例えアイツに何があっても金輪際絶対助けを求めようとしたって絶対助けない!絶対助けるもんか!勝手に一人でやっちゃえ!私は…私は…私は……うぐっ。

「…」
アクタベは一人、目前でキャンキャンと泣き喚きキャンキャンと通知表を握り締めキャンキャンと握り締めた通知表を破り捨てるものの寸前で止める様子とキャンキャンと膝を衝いて泣き喚く様子を見た後、こっそりと溜息を吐いた。静かに目線を逸らす。目の前でキャンキャンと泣き喚く犬は相変わらず世間知らずで身の程知らずだった。しかし、そう言う事はそれを雇ってる自分だからこそ知ってる事であり、当分、そのような自ら望んでいる身の程知らずの職に身を就く事等無理だと分かっていた。一般的に見れば普通で社会の歯車でしかない職業も、キャンキャンと目前で泣き喚く犬にとっては魅力に思える職業の一つなんだろう。確か刺激がどうとかなんとかどうとか…。どうでもいい戯言には耳を貸さない主義だった。しかし目前でキャンキャンと泣き喚く犬が何か言おうとするのならば、一応聞く姿勢は見せてやろう。しかしその事はアクタベにとっては何の意味の立たない事だった。キャンキャンと泣き喚く犬の戯言はどうでも良い事だった。アクタベにとってはどうでもいい情報だった。であるから、アクタベはそのどうでもいい情報の戯言を破り捨てて戯言の下に隠された本音だけを取った。戯言をビリビリに破かれたキャンキャンと泣き喚く犬は更に泣き喚いた。アクタベは溜息を吐く。ずっと頬杖を衝いて目前で泣き喚く犬のキャンキャンとなく声を聞くだけだった。

そもそもね、本当に一人では駄目なの。と言うか一人でやると本当に途方もない労力がいるんだよ?その上途方のない時間が必要ときたもんだ。だからこそ既存の技術が必要なのであり既存の作品とその労力が必要なのであり…あぁなんだもう!あの会社!あぁなったらもう、お前の情報まるっと何処かへ送るぞ!何処かへ取り置きするぞこの野郎!あの馬鹿野郎!ちきしょう、ちきしょう!そう言う事ならさっさと表面だけ教えてその上で見りゃよかっただろうが!ちきしょう、ちきしょう!何が企業の理念だ何が企業の意志を見ろだ!それで合わせて下手に打ったとしても大損こいたらどうすんだボゲ!へーへーただの失敗の体験談ですか!失敗する為に経験するんですか!大損してそこから成功の秘訣を取るんですか!よかったね!よかったね!私は当分嫌だけどね!そう言うの!そう言うの!だって何で知っててそれを回避できないって言う!そもそもその会社はA国を敵対してるとかそういうのじゃなかったのか!

「…」
アクタベは凹む音を聞いた。金属か木造か。それはキャンキャンと泣き喚く犬の痛がる様子を見れば分かる事だった。一目瞭然だった。アクタベはキャンキャンと泣き喚く犬が片足を押さえてピョンピョンと片足で跳ねる様子を見た。自然を口の端が上がる。滑稽で馬鹿らしい姿に嘲笑が沸き起こった。アクタベはキャンキャンと泣き喚く犬が片足を押さえて片足でピョンピョンと跳ねる姿を見ながら考える。と言うか、企業の情報を流すと言う事は、探偵の職務においても食い扶持の一つになるが。とアクタベは思いながらキャンキャンと泣き喚く犬が片足で跳ねる様子を見る。我が探偵事務所はそのような事をしていないが。アクタベはのんびりと自分の事務所のことを考えながらそう思った。相変わらず蹴った痛みに堪え切れずピョンピョンと跳ねるキャンキャンと泣き喚く犬は痺れた爪先を覆って片足で跳んでいた。アクタベは一笑を送る。更にキャンキャンと泣き喚く犬は牙を見せて来た。アクタベはそれを面白くも可笑しそうに眺める。キャンキャンと泣き喚く犬に火を注いだ。

「馬鹿にする気か!」

湿った木炭が一気に渇き、火種を下ろされた事により薪が燃えた。キャンキャンと泣き喚く犬は木炭を濡らした水を目尻から垂らしながらアクタベに牙を剥いた。アクタベはそれをニヤニヤとしながら見、口の端をニヤニヤと上げながらキャンキャンと泣き喚く犬の頭に手を伸ばした。手を置く。しかし、何時ものように受け入れるのではなく、自身の左手に傷を作った猫と同じようにキャンキャンと泣き喚く犬は爪を見せた。アクタベの手の甲に傷を残そうとした。しかしアクタベは寸前の所で避ける。爪を切ったのが仇を見せたか、アクタベの手の甲には爪先が掠るものの、白い縦線すらも作らなかった。キャンキャンと泣き喚く犬は侮蔑に塗れたと感じ、ギッと憎しみを込めてアクタベを睨み上げた。しかしアクタベはニヤニヤと笑い見下ろすだけだった。
キャンキャンと泣き喚く犬にとってそのアクタベの反応は火に油を注ぐだけだったし、アクタベもまた、そのキャンキャンと泣き喚く犬の姿と反応に更に注がれるだけだった。
アクタベは手を伸ばす。キャンキャンと泣き喚く犬は辺り構わず泣き喚き喚き散らすが、アクタベが一定のリズムを取って頭を撫でると、叩かれる目覚まし時計のように段々と声を小さくした。アクタベはそれにニヤニヤと笑いながらもキャンキャンと泣き喚く犬の頭を撫でる。キャンキャンと泣き喚く犬は堪え切れなくなり、アクタベに飛びつく。アクタベは猫とも犬とも付かぬ生物を腕の中に収める。「馬鹿野郎馬鹿野郎」と自棄になって暴言を吐く生物を面白おかしくも見、ニヤつく。ニヤついて見られていると言うのに頭を撫でられ腕の中に収められていると言う様子にアクタベは堪らなくなり、腹に溜まった笑いを噴きだした。腕の中に収めた生物が怒りを生やしたかのようにアクタベに食って掛かる。アクタベは噴き出しながら頭を撫でる。「もう!」と腕の中に収めた生物がアクタベの頬に手を伸ばして自分の方へ顔を向けた。アクタベは吹き出した自分の顔を見られたくなくて、無理矢理顔を俯かせた。「ちょ、っと!」ななしは叫んだ。アクタベは堪らなくなり更に頬に堪えた笑いを噴き出した。噴き出した笑いを堪え切れず吐き続けるアクタベに段々と侮られていると捉えたななしがアクタベの肩を掴む。散々と馬鹿にしやがって、お前もか!とアクタベに食って掛かった。アクタベは顔を俯かせて噴き出しながらななしの肩を掴んだ。「落ち付け」アクタベは腕の行動にそう意味を込めた。しかし震える肩を笑いを噴きだす口と頬からしてもうそれは最悪だった。逆にななしの怒りに火を注ぎ、ななしの顔は真っ赤になった。「ちょっと!」「もう!」「いい加減にしてよ!」最後になるにつれてアクタベはななしの声が擦れるのを耳に入れた。一旦笑うのを止めて、顔を上げてななしを見る。目に涙を溜めたななしが自分を見て、叩いた。アクタベは平手を打たれたと感じた後、間髪置かずにやり返した。ななしの頬にもアクタベの頬と同じように赤い腫れが出来る。涙をため続けてアクタベを睨み続けた後、ななしは「もう知らない!」と言って背を向けた。アクタベは捻った腰に腕を回して無理矢理それを止めさせた。「もう知らない!」「離して!」「離してよ!」とななしは言うが、アクタベは離さなかった。ここで離せば、絶対後で面倒臭い事になる。アクタベは長年、キャンキャンと泣き喚く犬と一緒にいてそう思った。既に体験談だった。経験を糧として得られた実であった。アクタベはその実を齧りながら、暴れるななしを腕の中に収めた。気性の荒い猫のようにななしはアクタベの腕の中で暴れた。
そう言えば、とアクタベは暴れるななしを腕の中に収めながら思いだす。最初にななしを腕に収めた時も(時と場所も意味合いも全く違うものであったが)このように暴れていた。今とは全然違うが。アクタベは最初に胸に収められた時のななしの状況と今の状況を見ながらそう思った。あの時は外敵に襲われて命を奪われる危険が迫ってどうしようもなくて対処法が分からなくて我武者羅に暴れて逃げ出そうとした事。今は、ただ怒りに身を任せて逃げだそうとしているだけだった。アクタベはななしの背と更に密着する。暴れるななしの腕がアクタベに当たり、拳がアクタベの頬に食い込む。「あ。」とななしが頬に当たった感触に気付き、目に涙を溜めたままアクタベの方を見る。アクタベはななしの腰をキツク抱き締めたまま、ボロボロと目から流し続ける涙を観た。やはり、このように分からずとも分かって振り向く姿が愛おしい。アクタベは何か変な気分を抱きながらななしに顔を近付けた。アクタベの近付く顔を受けて、ななしはどうしようもなく対処法が見付からず、アクタベの頬に食い込んだ拳を離して、アクタベの頬を掴んだ。閉じ掛けたアクタベの目が不機嫌そうに開く。不愉快だと訴える目を目前に見たななしは軽く笑った後、腹癒せにアクタベの頬を掴んで揉んだ。アクタベは余り使われない固い鉄の表情筋を頬から揉まれながら、不機嫌そうに眉間を顰めた。アクタベの変わった表情を見てななしは滑稽さに笑いを噴きだした。アクタベの怒りの炎に益々油を注ぎこんだ。
アクタベはななしの腰を両腕で掴んだまま脚を動かした。ななしの腰は捻られており、注意を自分の頬を掴み揉む事にしか目されてない事を知った後、アクタベはななしの腰へ大ダメージを与えた。ななしが可笑しくも歪に表情を歪ませた。アクタベはその変動に笑った。鼻で一笑した。アクタベの腕越しに自分の腰を掴んだななしがギッとアクタベを睨み上げる。アクタベは鼻で嗤いながら喉の奥で嗤い始めた。「何なんだよ、もう!」とななしが機嫌を損ねて声を荒げる。アクタベはその表情にも鼻で嗤い、体勢を変える。ななしを下にやる。
自分の膝に乗せた状態から床に押し倒す姿勢に変えて、アクタベはななしの上を覆った。ななしが嫌そうにアクタベの肩を叩く。アクタベはそれすらも滑稽に見えてななしの首に顔を埋めた。何時もの反応と違ってななしはアクタベに嫌そうに止めるように言う。しかしその反応すらもアクタベの火に注ぎ、喉の奥から嗤いを込み上げさせた。アクタベの滑稽さに嗤う声にななしは声を上げる。アクタベは肩を叩くななしの拳を受けながらも喉の奥で嗤った。例え嫌だ嫌だと言っても身体が馬鹿正直に反応するのが堪らなく面白くて滑稽で堪らない。我慢がならない、とアクタベは言うようにななしの身体に手を這う。「やだ!」とななしが一際高く声を上げたが、長年肌を交わした身としては、その声にすらもう色が含んでいるように感じた。
アクタベの手がななしの肌の上を這う。ななしが嫌そうに目に涙を溜めて首を横に振る。アクタベはななしの耳の後ろへと顔を動かし、吸う。それすらもいいように感じてしまうのは何故か。アクタベはななしの服の下を退かしながら反応を観る。何時ものように反応をし出した。アクタベはななしの様子を見た後、ななしの唇へ吸い付き、そのまま受け入れられた。アクタベは、目を閉じ、黙って自分の行為と唇を受け入れるななしの様子を見る。そんなに嫌なら噛むなりなんなりの反応を見せろ。と思いながら口の中へ舌を入れ込む。アクタベの割り込む舌を受けてななしの眉間が微かに凹凸を作るものの、容赦なく入り込むアクタベの舌を受ける。散々とアクタベの肩を叩いた手が今やアクタベの肩を握っている。なんだ、結局はやっぱいいんじゃねぇのか。と思いながらアクタベは事を続行した。
しかし、終わった後でまた延々と先程の続きと言える愚痴を聞かされる事には変わりなかった。
アクタベは終わってからも続く愚痴に眉間を顰め聞こえないように舌打ちを打った後、水を取りに行った。ピッチャーと共に水の入ったグラスを携え、ベッドに座り飲む。ななしがベッドに手を衝いたまま近付き、アクタベの飲む水を覗き込む。アクタベは欲しそうに自分の手元を見るななしの視線を見ない振りをした。
「ね、ちょうだい。」とななしが強請るので、黙ってピッチャーを渡す振りをしようかとしたが、またキャンキャンと泣き喚くのではないかと思い、そのままピッチャーを渡した。ななしはそれを受け取る。アクタベの手元にあるグラスと自分の手元に渡されたピッチャーを数度見返した後、ななしは欲しそうにアクタベのグラスに視線を暫し、留めた。アクタベはそれを無視する。数回それを繰り返した後、おどおどとななしは自分の頬に水滴の浮いたピッチャーを寄せる。水の冷たさが水滴と硝子を通してななしに伝わった。
粘膜の代わりに皮膚に水分を伝わせ沁みとおらせるななしの様子に、アクタベは「馬っ鹿みてぇ」と思いながら水を口に含む。水を飲む振りをしながら、一口を口の中に残す。そのまま空になったグラスをチェストの上に置き、ななしの頭を掴み、近付く。ピッチャーから頬を外されたななしはそのままそれを受ける。生温い水を口の中へ流しながらアクタベはななしの様子を見た。やがて、外す。ななしの口の端に入りきらなかった水が落ちる。ななしの喉が小さく動いた。

「…温い。」
「当たり前だろ。」

アクタベは冷静にそう返した。ボソリと生温い水の感想を漏らしたななしは温く体温の残る湿ったシーツを握り締めて、アクタベの手元にあるグラスを取ろうとした。アクタベは嫌がる。ななしもそれを嫌がる。暫しグラスの奪い合いをした後、水滴の残るグラスがシーツの上に転がり落ちる。シーツが更に濡れた。アクタベはその隙を縫ってななしの手首を掴み、シーツに縫い付けた。特に脚で抵抗する事なく、ななしは軽く手を動かして抵抗をする。アクタベは微弱な抵抗をするななしの様子を観察した後、徐々に身体を近付かせた。粘膜の擦れ合いを再度しようと企んだ。アクタベの進むそれをななしは受けていた。ピッチャーの水滴がチェストに水たまりを作る。ピッチャーの中身が生温くなる頃に二人の身体は熱く熱していた。
朝、ななしが起きる頃には、ピッチャーの水はもう既になくなっていた。アクタベの姿を見るが、ない。ななしは床の上に落ちた衣服を羽織って台所に出た。するとアクタベの姿があった。
散々とななしに飲ましたピッチャーの中に汲まれていた水が元通りに戻っており、アクタベがキュポッと蓋を閉めた所だった。浄水器となる一本の炭がピッチャーの中で揺らめく。
アクタベはピッチャーの水を作り終えた後、「また今夜もやるから」と言った。ななしはそれを受けて鼻に熱を持たせたと同時に自分の身体を心配した。まだ夜までは長かった。アクタベはななしの身体が持つかどうかを心配したものの、やはりそんな事は関係ないので、やれればいいと思った。ななしはアクタベの期待に応えられるかどうかを疑った。どう見ても、アクタベの体力は自分のじゃ追い付けなかったからだ。ななしは溜息を吐いた。ならば作戦を練るか!とななしは心に決めたが、アクタベにはバレバレだった。アクタベは今の言葉を受けて握り拳を作って空を見上げたななしの姿を見て「あ、何かあるな」と思った。もうバレバレだった。
そんなバレバレの関係を余所に、空はバレバレの関係を現すかのように晴れ晴れとした太陽を見せていた。太陽は嘲笑うかのように黒いコンクリートを熱していた。アクタベは黒いスーツに身を羽織りながら、ななしの白い肌が焼けない事を祈った。考えた。しかし例え焼き焦げても目玉焼きのように食ってしまえばいいかと考えたから問題なかった。アクタベの頭の中は分からなかった。ななしの頭の中は分からなかった。ただ共通する事と言えば、卵焼きには卵専用の醤油を除いて何を掛けるかどうかの疑問において「塩」と応える所が共通されていた。



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