とまどい


ツラツラツラツラと文机に向かって文字を連ねる。色褪せた紙の色を彷彿とさせるような便箋に文字を書き連ねる。黒のインクがさらさらと文字を書いていく。さらさらと黒インクを出すペンが私の動きに従って上下左右に動いて行く。アクタベさんへの思いを書きたくて、アクタベさんへの思いを書き連ねようとして、ふと思ったのだ。あ、書き連ねると言うか・・・あ。書き、あ、思い…じゃなくて想い?そうこう思案に暮れてる内にまた一枚と紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱の中に捨てる。またコツン、と紙がまたゴミ箱の中から外れて縁に当たり、外に出る。床に落ちた大量のゴミを気にせずに私はまた、紙を開き文字をまた一つ一つずつ書き連ねる。そこに込められた想いは変わらない。ただ、文面が出来上がるのが気に入らないだけだ。何か、この文面と言うか、文面を納得する形に仕上げられない。愛してます?愛してる?愚問。だ。まだこれよりももっといい方法がある筈だ、もっといい表現の仕方がある筈だ、と手頃にあった、近くにあった紙を取り上げ、そこに候補となる言葉を転々と書き連ね、次に文字でぐしゃぐしゃと丸く絡み合った線を作る。ぐしゃぐしゃ、ともやもやを表現された図は、丁度そこに収まりきる。

「・・・・・・」

ななしは左手で頭を抱き、右手でペンを動かせた姿勢のまま、固まる。なんか、やだ。どうしてあの人への想いだとか愛だとかを書いていると言うのに、なんでそんな事にならなきゃいけないんだ。もやもやなんて、あの人に不満なんか無い。そう言う欠点とか不満とかもあっても、きっとそれも痘痕も笑窪とか言う風になって、そう言う不満とか嫌いも好きも欠点も、きっと「すき」と言う部類に入るんだ。と、ななしは泣きそうになってぐしゃり、と涙が出そうになる目尻を利き手の手首で拭う。そんな筈が無い。また、立ちぶれる自分の中の定位置に怖じけ付き、その場に立ち竦む。アクタベさんへの想いを綴っただけだと言うのに、何故そう言う事になるのか。私からアクタベさんへの不満があると言うのなら、決して過去にあんな事やこんな事をしない筈だ、とななしは泣きながら指折りでアクタベと過去にあった事、経験したこと体験した事を指折りで数えて指折り損ではなかったという事を確認する。
とにかくも、今の気持ちも込めて紙を書く事にした。泣きそうになりながらも、自分の今の気持ちも含め、指折り損でも無かったこと、十をとうに過ぎたことも書いた。

「・・・」

出来た、とななしが零れ出る涙を拭いながら、ようやく完成した文を見遣る。所々涙の痕があるが、まぁいいだろう。ななしは再度目尻を拭った後、近くにあった、その手紙に使われた便箋とセットになって売られていた、封筒に今自分が記した今の気持ちを封入する。しっかりと唾で糊をかえし、しっかりと封がぴっちりと閉めた事を、ツイ、と人差し指と親指の先で摘むように封の先を自分の側へと撫でた後、とりあえず形ばかりではあるが、切手を貼った。切手と言っても、子供が玩具やままごとに使うような、実際の社会には実用性の無いものだが。
その次にななしは宛名と宛先を書き、後ろの背の右側に、自分の名と住所を書いた。実家の、ではあるが。

ななしが封筒を閉め、閉めた封筒の先に何か施しを付けようかと考えていた頃、丁度よくと言うかタイミングがいいと言うか機を見計らったように、とは言い過ぎ加茂しれないが、アクタベがななしの自室のドアを開け、無断で部屋の中に入って行った。ななしは自室で一人で何かをしている時、大抵は他者の介入や侵入を許さない性質であったが、ななしはアクタベを見ると、眉間を顰め悩ませていた顔から、パッと笑顔を開かせた。厳密に、それは「笑顔」と言えるかどうかは微妙ではあるものだが。
ともかくも、ななしはアクタベを見て笑顔を開かせた。何故なら、丁度手紙の送り先となる人物であり、少なからずも、ななしが安心できると位置付けた人物であるからだ。
ななしはアクタベの姿を見、文机から離れ、先程封をした手紙をアクタベへやる。アクタベはななしの差し出した手紙を無言で数秒見た後、サッとななしの手からその手紙を奪い取り、封の先をビリビリと破いて封を切る。切られた封の角に、封を開ける為に切り取られた短い冊が繋がれてた。

アクタベはざっとななしの手紙に目を通した後、おもむろにそれを破き始めた。突然の事にななしは驚き、呆然とびりびりと小さく破れていく紙片を見ていたが、アクタベは依然として表情すら変えず、ななしが綴った文字の書かれた紙を破いて行く。
ななしは千切り取られた紙に書かれた文字が何か勿体なくて拾おうとするが、アクタベは、文字を拾おうとして屈み始めたななしの腕を取り、立ちあがらせる。無理矢理立ちあがらされたななしは多少ふら付きながらも、何とか体勢を整え戻し、アクタベの表情を見る。依然と変わらなかった。が、アクタベは、ななしの腕を取る際に離した紙の散りがななしの頭に付いてるのに気付きサッとななしの頭からななしが先程までの陰鬱とした想いの描かれた紙の名残を叩き落す。アクタベの手がななしの髪を触り、視界に自分の頭頂辺りから紙の名残りが叩き落とされるのを見ながら、ななしは下げた首をぐるんと起こさせてアクタベの顔を見上げた。頭を下げたななしが急に起き上がった事に驚きながらも、アクタベは依然と変わらず表情を変えない。ななしが叩かれた自分の髪に触り、叩き落とされた紙のほかに千切られた紙が無いかと探すとき、アクタベは口を開く。

「似合わねぇよ。」
「え。」
「似合わねぇ。」

とそう言ったっきり口を閉ざしてななしの部屋から出ようとする。ななしは部屋を出ようとするアクタベを何とか入口付近で止めさせ、腕を掴んだままアクタベに問いかける。

「え?!一体何処がどうって言うんですかッ!?」
「あー…?鬱蒼としたの全部。」
「何処がッ?!」
「此処が。」

とアクタベはななしの額に指を指し、軽く小突くように当てる。小突かれたように指を額に指されたななしは、多少バランスを取りながらもアクタベに取って掛かる。

「え、いや…何処が?!」

慌ててななしが自分の髪を触り爆発してないかどうかを確認するが、残念ながらお前が爆発したのは酷く寝相が悪い時で寝返りが酷くて寝起きの頭が酷かっただけの時だ、とアクタベは小さく心の中で毒吐く。

「・・・あ、雨か。」
「一体お前のその思考回路、一体どうやってしたらどうなるか知りてぇよ。」
「びしょぬれになると、ほら。」
「・・・何だ。」
「木が。」
「・・・あぁ。」

要するに、集中的な雨やゲリラ豪雨が降ると、木に茂った葉が水の重みに耐え切れず、そう鬱蒼とした雰囲気になるのだろう、と言う事を言いてぇのか。だが、生憎だが、お前が雨でズブ濡れになって下着が見えた時、お前の髪は爆発なんかしてなく、じっとりと肌に纏わりついてたがな。と小さく心の中で吐く。

「髪型ボンバー…」
「・・・・・・」
「・・・で、一体何処が髪型ボンバーなんですか。」
「違ぇよ。」
「うっとおしいって言ったでしょ。」
「違ぇよ。」
「じゃぁ、何?」
「・・・」

ななしは自分の思考にどっぷりと浸かってる時、子供の連想ゲームのように、次から次へと関連の無いものへと思考を飛ばす時がある。その様子は見てて面白いものだが、一向に伝わって貰えない時は、どうしようもなく苛つく。ななしの頭を掴み寄せ、小さくななしの額に唇を寄せる。

「此処、」

とななしの額に口付け再度教える。こうする事で、ななしは否応なしにも自分にから目を背けた事に自分から否応なしに直面させられる事になり、暫く頭を抱えて悩む事になる。それも、その悩みの根源も悩ませる種子も、可愛らしいものだが。

ななしの額にまたキスを送り、否応なしにななしの直面している現実と問題に向き合わさせる。それが否応なしにも可笑しく、絶対に絶対に絶対に言いたくはない事であるが、可愛らしく感じるので、延々とこれを続けたいと思うが、そうは言ってられない。ななしはきっと、何時か自分で答えを見つける事であろうから。それでもしかし、そうは言っても、やはりななしだからか。よく似たような理由でも全く違う所でまた悩み始める。それを可笑しく可愛らしく見るのも、また一興だ。

アクタベはななしの額に掛かる髪を掻け、露わになったななしの額にキスを送り、赤くし困惑するななしの様子を楽しむ。今夜の夕食は、何にしようか。



こんわく

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本当は、企画提出よう
でも、おしゃかになったからこのままなのです。
断じて面倒臭い訳とかry



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