鬼叺 novel | ナノ
雨の日から

「ごめんね。家、入れてもらって。」
「雨なら仕方ないだろ。」
「うん、ありがとう。」

そう言ってタオルを頭からかぶる松風は、いつもより一回り小さい。
声こそ変わらないが、肩まで伸びた髪、まるっこい身体、膨らんだ……げふんげふん。
未だに認めたくはないが、どこから見ても女だ。

「、いいから、シャワー浴びてこい。」
「うーん、でもちょっと眠い。少し寝てからでいい?」
「だめっ、だ!」
「……けちー。」

ふらふらと風呂場へ向かう松風を見送ってから、俺は溜息を吐いた。
それはもう、大きな溜息を。

「信っじらんねー……。」

丁度一ヶ月前。
辺りも暗くなってきた頃、俺達は一緒に帰っていた。
その時、雨の予報もないのに折り畳み傘を持ち歩く松風を不思議に思ったのがことの始まり。
理由を聞いてもなかなか話さない松風にムカついていたら、通り雨が降ってきて、慌てて傘を差すも間に合わず。



こうして松風は、まんまと俺に“水に濡れると女になる体質”がバレてしまいましたとさ。



……いやいや、ぜってーおかしいだろ。
でも、見てしまったからには信じないわけにもいかず。

ちなみに、湯をかぶると男に戻る。

なんとも不便な体質だが、本人がそうなった理由も、いつからそうなったのかも分からないのでどうしようもない。
一応、両親も、秋ねぇ(?)も知らないらしい。
まぁ、小学生までだったら見た目ですぐにバレはたりはしないだろ。

だからといって中学生になったからすぐバレる、という訳でもなく。
多分あの時、俺じゃなくて狩屋だったら、影山だったら。
まず変化に気付かなかっただろうな、制服着てたし。

じゃあ、なんで俺が分かったかっていうと……まぁ、あれだ、そんな気がしたから、で、うん。
ずっと見てたとか、好きだとか、そんなんじゃ、うん。

「剣城―!」
「っ、!!!??、」
「え、と、シャワー終わった、よ?」
「、お、おう。」

雨に濡れた女天馬と、風呂上がりの男天馬。
どっちも思春期男子には刺激が強すぎるぞ、おい。

コイツのせいで雨の日が嫌いだ。



02/02/17

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