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「キャーーーーー!!!」
静かな階段に西園寺の悲鳴が木霊した。
おそろく廊下にも響いたんだろう、すぐにクラスの連中が様子を見に来た。
なかには他のクラスの人もいる。
「百花ちゃん?!大丈夫?!!」
あっという間に西園寺の周りには人だかりができ、みな口ぐちに西園寺の怪我の心配をしていた。
「何があったんだ?」
「グスッ…ヒック…皐月ちゃんが…あたしのことウザイって言って、突き落としてきたの…。」
相変わらず鳴き真似が上手い。
その場にいた全員がそれを信じたのか、ウチに非難の目が集中した。
「…ウチは何もやってない。」
「何言ってんだよ!西園寺は突き落とされたって言ってんだぞ!!」
「百花ちゃんが嘘つくわけないじゃない!」
呆れた…。
こいつらは盲目的に西園寺を信じ切っている。
今ウチが何か言っても言い訳としか聞こえないだろう。
少し考えればこの高さから急に落とされて無傷な西園寺が可笑しいって気付くはずだろう。
ウチは受け身をとっていたのを見たから何も思わないが、それを見なくても普通に分かる。
「とっ取り合えず百花ちゃんを保健室に連れていかないと…。」
今まで傍観していた沢田が前に出て言った。
ウチと目を合わせようとせず、妙にオロオロしている。
「…そうだよね、百花ちゃん大丈夫?」
「うん!皆ありがとう!!」
ぞろぞろと列をなして、西園寺は保健室に向かっていった。
そのときの西園寺は可笑しそうにウチの顔を見ていた。
「(性格悪い奴…。)」
「おい、黒羽!!」
呼ばれたので見てみると、数名の生徒がそこに残っていた。
「西園寺が優しいからきっと許すだろうけど、俺たちは許さないからな!!!」
嶋岡とか言う男子を筆頭にいる奴らはおそらく信者並に西園寺を信じきっているんだろう。
殺気を含んだ目を皆している。
「明日…覚えてろよ…。」
―翌日―
嶋岡が言う明日になってしまった。
早速下駄箱は墨汁塗れになっていて、上履きが真っ黒になっていた。
これでは上履きが履けない。
「(今度からは持って歩くか)」
「あの…皐月ちゃん…。」
「?あぁ、おはよう京子、花。」
誰かと思って振り向いてみると、オドオドした様子の京子と顔を歪めた花がいた。
「これ、スリッパ借りて来たわよ。」
「!!ありがとう!助かった。」
正直職員室に行くのは気が重いから嬉しい。
スリッパを履いて二人に向き直ると、浮かない顔をしている。
「なんじゃ?二人共変じゃ…。」
「…これって私のせいだよね?皐月ちゃんが私を庇ったから百花ちゃんが…。」
肩を震わせて今にも泣き出しそうな顔の京子に慌てる。
「皐月が百花を突き落としたって噂はもうかなり広まってるわ。それで京子が責任感じちゃって…。」
京子のすすり泣く声が聞こえた。
優しいが故に罪悪感があるんだろう。
確かにきっかけは京子の件だったけど、喧嘩を吹っ掛けたのはウチからだ。
京子が責任を感じる必要は無い。
「…京子も花もウチのこと信じてくれるか?」
「もちろんだよ!!友達だもん!!!」
「あたし達は皐月の味方よ。」
「ウチは二人が信じてくれるだけで充分じゃ。だから京子が泣く必要はない。」
少しでも安心してほしくて笑って言えば、京子も花も笑ってくれた。
その笑顔が葉月と重なって心が癒やされる。
「それにウチにはやることがあるしな…(ボソッ」
「えっ?なにか言った?」
「!!いや、何でもない。早く教室に行こう!」
京子と花というとても優しい人達と友達になれた。
いつか葉月のことを話したら二人は受け入れてくれるだろうか?
二人の背中を押しながら少し不安になった。
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