8
葉月は西園寺に虐められていた。
それを今日確信出来た。
多分机に落書きしたのは西園寺だ。
自作自演の嫌がらせをすることによって、気に入らない奴を落とし入れてたんだろう。
葉月がいなくなった今、ターゲットは京子に変更された。
せっかくできた友達だ。
葉月のように傷つけさせるわけにはいかない。
話し合いに応じるようには思えないけど、一応話をつけなければ…。
「皐月ちゃん、ちょっといい?相談があるのぉ♪」
思案にふけっていたら、西園寺の方からやってきた。
わざとらしい笑顔を浮かべている。
周りの奴らが頬を染めているのを見ると、西園寺はこのクラスでそれなりに好意を抱かれているらしい。
それがかえって、彼女が自作自演をやりやすい環境を作っているんだろう。
「相談ってなんじゃ?ウチでええなら話を聞こう。」
「ホント?ありがとぉ!!じゃあちょっと付いてきてくれる?ここでは話せないことだから…。」
この後のことは安易に想像出来る。
分かってはいるけど、ウチは自ら飛び込んでいこう。
これ以上、お前の思い通りにはさせない。
ゆっくり深呼吸をする。
「ええよ、行こうか…。」
西園寺に負けないぐらいウチも愛想笑いをした。
「ここなら静かに話しが出来るよねぇ。」
連れてこられたのは非常階段の踊り場だった。
確かにここなら教室が近いし、滅多に人は来ないだろう。
「(よく考えとるな。)」
「あのね皐月ちゃん。相談っていうのはねぇ、京子ちゃ「京子のことなら、もう分かっとる。」
ウチが遮るように言えば、西園寺の顔が明るくなった。
馬鹿じゃな、ウチが味方になるとでも思ってるんか。
「気付いてくれたのぉ?あのね、あたし京子ちゃんに虐められてるの…。机の落書きは違うみたいだったけど、靴隠されたり、体操服捨てられたり、この前なんか…。」
意気揚々とされたことを語っている西園寺はとても虐められてるようには見えない。
これに騙されてる連中は本当に愚かじゃ。
「皐月ちゃん、京子ちゃんを庇ってたから、もしかしたら京子ちゃんにいいように使われてるんじゃないかと思って心配したんだよぉ?でもね、京子ちゃんは本当にいい子なの!!きっとあたしが悪いんだよね?」
反応をみるように泣きマネを始めた。
京子のこと貶したいのか、庇いたいのか分からない。
京子が悪いと言いふらしているのはお前だろうと思った。
「西園寺。」
「なぁに?皐月ちゃん。」
期待するようにこっちを見た西園寺の目には涙がなかった。
「悪いのは…あんたじゃろ?」
「えっ?」
「京子はなにもやっとらん。今回の机も含めて西園寺が自分でしたこと…。」
余程驚いたのか、彼女は茫然としていた。
「あんたが京子を虐めたんじゃ。」
そう告げると、西園寺は一瞬俯いてすぐに顔を上げた。
その顔はいつもの顔ではなくて、醜く歪んだ…きっと彼女の本当の顔。
「そうよぉ、あたしが京子ちゃんを虐めてたのぉ♪だって京子ちゃん、マドンナなんて呼ばれてるんだもん…みんなのお姫様はあたしだけで十分だと思わない?」
「思わん。お前が言ってることはただの自己中じゃ。」
彼女の顔が更に歪んだ。
きっと怒っているんだろう。
「うるさい!あんたさっきから分かってんの?!あたしに逆らえば、あんたもただじゃすまさないから!!」
「ウチのことは好きにしてええよ。その代わり、京子を虐めるのはやめてもらおうか。」
ウチがそう言うと、西園寺は酷く意地悪い笑みを浮かべた。
「フンッ!いつのまにか友情を築いたってわけね。いいわ、京子を虐めるのはもう止める。代わりにあんたが今度の玩具だからね!」
言うや否や西園寺は、階段の隅に移動した。
「何するつもりじゃ?」
「ここから落ちるのぉ♪」
またいつもの顔に戻る西園寺。
「ケガするぞ。」
「あたしがするわけないじゃない。」
随分手慣れてるみたいだ。
葉月もこんな風に落とし入れられたのだろうか。
「ねぇ、いいの?あたしが落ちれば、その日からあんたの毎日は地獄になるわよ?今土下座でもするなら、許してあげてもいいわ。」
「別に気にせん。ウチは負けるつもりないしな。」
この状況を今ウチは心のどこかで楽しんでいる。
ポケットに手に入れると四角い物に手があたった。
「お前にとってゲームのように、ウチにとってもこれはゲームじゃ。ウチが折れるのが先か、お前の本性がバレるのが先か…。」
「あんたも相当頭が可笑しいのね。」
この場には和やかな雰囲気が流れているとさえ感じられた。
西園寺の言うとおり、ウチは頭が可笑しいのかもしれない。
「クスッ…じゃあ、そろそろ始めようか。」
お互いの目があったまま、西園寺はゆっくりと後ろに体を傾けた。
「「GameStart!!」」
これから始まるゲームはどれぐらいウチを楽しませてくれるんだろうか…。
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