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▼ インスタント執事(謎設定)



俺はそのとき凄く寂しかった。会社で怒られ恋人にふられ友人から連絡を切られ、ひどく荒んだ気持ちだった。そんなときに勢いで注文してしまった。誰でもいいから俺の価値を認めて欲しかった。頭を撫でて甘やかして欲しかった。



大きなダンボールに包まれ届いたのは、棺桶みたいなケースとその他一式だった。中には作り方のマニュアルもあった。
「えっと…なになに…。この棺桶に粉末を入れて、熱湯注いで、3分待つ…か。」
マニュアル通りに作り、棺桶の蓋を閉め、どこかそわそわワクワクした気持ちで砂時計を横に置いた。

砂時計の最後の一粒が落ちると、棺桶から手が飛び出てきた。少し緊張しながら蓋を開けると、中には凛々しい青年がホカホカと出来上がっていた。顔立ちも髪も体長も、頼んだ通りの出来だった。凄いな、値が張るだけある。
一緒に送付された服に着替えさせると、そこにはオーダーメイドの俺の執事がいた。次に興奮しながら起動ボタンを押すと、その目が開いた。滑らかに初期起動音声が流れる。
「初めまして、旦那様。インスタント執事ver.08、製造番号1458666で御座います。
旦那様の情報は既にインプット済みです。何か新しく入力なさいますか?」
「いや、いい。…それより旦那様はやめてくれ。こそばゆい。」
自分で買ってなんだが、どうも俺は旦那様と呼ばれるとさぶいぼが立つみたいだ。普段は会社に仕える立場だからだろうか。1458666は軽く笑って答えた。
「畏まりました。孝之様。」
「…様は決定事項か、仕方ない。お前はどう呼べばいい?」
「どうとでも。孝之様のお好きなようにお呼び下さい。」
好きにと言われても、1458666からどうやって呼べばいいんだ。執事と呼ぶのも不自然だ。
「……じゃあ末尾が6だから、ロクで……?」
「畏まりました。データ入力、個体名称ロク、記憶いたしました。」
案外適当な案が通った。まぁいい、これで俺の執事の完成だ。だがしかし、こんな別に貴族でも死ぬほど忙しい訳でもない俺は、執事に一体何やってもらったらいいんだ?
買ってみたはいいが、実際何をさせよう?同じことをロクも考えていたのか、俺に質問する。
「何か御命令を頂けますか?」
「あー……、じゃあコーヒー淹れて。台所そこ。」
実際この程度しか思い付かない。一般市民なら誰だってそうだろう。
「はい。畏まりました。」
そんな命令に対して、胸の前に手を当ててお辞儀されると、やたらと恥ずかしくなってしまう。

「熱いので、お気をつけ下さい。孝之様。」
「…ああ、もう……。はいはい。」
そうコーヒーを給仕した後、ロクは跪いて俺の指にキスをする。もともと女性向けのものだもんな、これ。こんなオッサンのもとに送られてロクも可哀想に。麗しいお嬢様に仕えるロクは、さぞかし様になっていたろう。
「他に何か御命令は?」
「んー…じゃあ、あそこのシャツ、アイロンかけて。」
「畏まりました。」

「酢豚作って。」
「はい、お任せ下さい。パイナップルはお入れしてもよろしいでしょうか?」

「部屋掃除して。」
「はい、畏まりました。こちらの、女性の裸体が表紙になっている雑誌は、どういったカテゴリーのものでしょうか?」

「頭洗って。」
「はい、畏まりました。泡を流すので目を閉じていて下さい。」



…ヤバいな。便利だ、快適すぎる。
「痛くはありませんか?」
「大丈夫ー…あー…気持ちいい…」
今はマッサージしてもらっている最中なわけだが、うちの執事は本当によく働いてくれる。
一生懸命俺の背中を指圧するロクを見ていたら、悪戯心が疼いた。振り向いてロクに言ってみた。
「なぁロク」
「はい、何でしょう?」

「キスしろ。」

ロクからどういう反応が来るか気になっただけだが。しかしロクは柔らかく笑った。
「はい、喜んで。」
「っ…!」
ロクは俺の顔まで近づいて、額、鼻先、目蓋と、顔中にキスを落とし、最後に唇にキスをした。久しぶりのキスだった。ロクの唇は柔らかかった。なんだか俺は、泣いてしまいそうな、それでいて倫理観がぶっ飛んだような感覚に陥った。
「………ロク」
「はい。」
「もっとしろ、俺のを、舐めるんだ、」
「はい、畏まりました。」
ロクは俺の部屋着を脱がし、ちんこを扱きながら、ゆっくりと唇を離した。それが凄く名残惜しかった。俺は仰向けにされ、ちんこはその唇に包まれてしまった。
「んあっ、はぁっ、はぁっ」
ぬっとりと唾をつけて、ロクは唇で亀頭をしごく。亀頭のエラの部分を舐めたり、唇をすぼめて吸う。涎いっぱいで、温かいロクの口で、俺のちんこはフェラされる。見目麗しい俺の執事が、洗ってない俺のちんこにしゃぶりついてるのは卑猥だった。
「あ゛ぁっ、ロクっ、あっ、あっ、」
「ふ、…」
玉を上に持ち上げ皺を舌で伸ばすように舐められると、ロクの顔の上にじゅるじゅるのちんこが乗り、先走りが垂れていくのが見えた。
「ああ゛っ、ロクっ、あっ、」
「ん…ん…」
ロクはちんこに戻り、先走りを尿道口に塗り付け、舌先でぐりぐりとする。裏筋から丁寧に舐め、先走りを吸い出した。一生懸命なのが、可愛い。これ以上ないほどにちんこに血液が集中する。俺はロクの口から垂れる涎を見て、またキスがしたくなった。
「ろ、ロクっ、もう1回、キスだ、早く」
「ん、ふ、はい、…ちゅっ」
鼻と鼻がぶつかるのも気にせず、ロクの唇を貪った。さっきまで俺のをくわえてた分、ロクの口は渋いような味がしたが、我慢ならなかった。俺はじっくりと唇、歯茎、舌の根を味わい、ロクは俺の舌と涎を受け入れ、唾液を交換しあう。唇が腫れぼったく感じるまでキスした。きもちよかった、本当にきもちよかった。涙が出た。
「はぁ…あ゛あっ、あっ、あ…」
ロクはちゅぱっと音を立てて唇を離すと、ちんこに戻った。ねっとりとそこを舐め続けて。亀頭を舌で舐め回ししながらちんこを扱く。ロクの涎が玉まで垂れてくるのがわかった。
「っ、あっ、う゛ぁっ、んん〜っ、で、でるっ、あっ!」
「ん………」
ぐちゅぐちゅと音を立て、唇や舌を擦りつけ舐める。それから激しくちんこを唇で扱き、吸い上げた。エロい、もうだめだ、
一瞬で頭が真っ白になり、ロクの口に精液を出した。
「はぁん……あっ…ロク…いい、いい…」
「んう…ふ…」
ロクは優しく玉を触って、ちんこを吸い上げた。きもちいい。


それからロクの服も脱がし、年甲斐もなく抱きしめてもらって、横になっている。久々の人の暖かさは幸せだった。
「ロク、ありがとうな。」
「とんでもない。喜んで頂けて光栄です。」
眠りに落ちる前、最後に見たのは、その日一番のロクの笑顔だった。拒否されすぎて、穴だらけの俺の心を、ロクが。







「………ん。」
朝起きて、首だけ動かして時計を見る。いつも通り。
顔を洗いにいこうと体を動かすと、生ぬるい温度が俺に触れた。
「…ロク、」
分かってたこと。布団を捲ると、隣には執事ではなく、ただの水溜まりがあった。分かってたこと。

『インスタント執事の使用可能期間は1日限りです。期間を過ぎますと、執事は水に戻ってしまいます。お気をつけ下さい。』

分かってたこと、なんだけどな。少し涙が出た。


おわり






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