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▼ ストレス(小スカ)



※後味悪く、意地悪もないです。

数年前に父が再婚し、義母と義弟が出来た。独立していた俺は盆正月くらいしか会わなかったが。
だが、最近義母が男と失踪し、義弟を置いていったそうだ。頼れる親戚もおらず、義弟を持て余した父は年の近い俺にそれを頼んだ。



「ここがお前の部屋。鍵も付いてるから。」
「………」
義弟は憮然とした表情で話を聞いている。見た目はまさに今時のチャラチャラした学生である。ほとんど交流のない、義兄弟と言っても会話もなかった間柄で、いきなり懐けという方が無理だ。ゆっくりと時間をかけて関係を築くしかないようだ。
「俺はリビングで仕事してるから、何かあったら聞いてくれ。」
義弟は首を少し前に出して、肯定の意味を示した。最近の子供はみんなこうなのかと目眩がする。少しずつ何とかしないと、など考えながら部屋を後にした。



「お?何かあったか?」
「………」
リビングでパソコンを弾いていると、しばらくして義弟がやってきた。何か困った事があったのかと思いきや、リビングのテレビでゲームをしだした。義弟の部屋にもテレビはあるのに、ヘッドフォンまでする徹底ぶり。…わ、わからん。最近子供の考える事は。俺はゲームに熱中する義弟にそっと溜め息をついて、パソコンに向き直った。

どれ位時間が経ったろう。
カタカタ、カタカタ
コントローラーとキーボードの音が響く。俺は一度伸びをしてコーヒーを入れる為立ち上がった。
「………ん?」
ふと義弟に視線をやると、その目は画面に集中しているのに、下半身はずっと不自然に動かされている。なんだろうと眺めていて、驚いた。
義弟が小便を漏らし出したからだ。ソファーから床へ小便が広がっていく。
「お、おい!」
慌てて駆け寄ると、義弟はきょとんとした顔をした。そして自分のそこを見て、目を見開いて、顔を真っ赤にして悲しそうな困ったような可哀相な表情を見せた。
「大丈夫か?具合、悪かったのか…?ここは片しておくから、風呂に入っておいで。」
「………」
そう慰めても義弟はコントローラーを握ったまま放心していた。確かに義弟の歳で漏らすことはまずない。だが体調如何でそんなものは幾らでも変わる。いきなりの粗相に驚いたが、本人が一番気にしているはずだから責めたりは出来ない。
「おしっこ、」
「うん?」
義弟が恥ずかしそうに涙を滲ませて話しだした。今日初めて聞いた義弟の声だった。
「したいの、わかんなかった…。ご、ごめん、失敗…したっ。」
そう言って義弟は堪え切れないように涙を零した。…病気でなく尿意を感じとれないなら、おそらく原因はストレスによるものだろう。義母に置いてかれて、父に持て余されて、それがどれだけ義弟を傷つけたかは想像だに出来ない。えぐえぐと手の甲で涙を拭う義弟は、強がった見た目や態度をしていても、ただの子供なのだ。
「ごめん、俺、おれ、どうしたらいいか、わかんねぇ、ごめん、」
義弟の涙は更に流れて、しゃくり上げる程になった。かけてあげる言葉が見つからなくて、ただ見つめてしまう。なぜこんな幼気な子供を置いて義母は出て行ったのか、痛々しい泣き声だった。
「おえっ、迷惑、なんないっ、よに、しよ、と思って、でもっ、えぐっ、ごめん、なさいっ、仲良く、しよ、と思って、でも、仕事っ、仕事っ、だからっ、待っ、て、」
…ああ、だからヘッドフォンまでしてこっちでゲームしていたのか。こちらも涙が出てくるようだった。世話になってる事への自覚と迷惑への自覚のジレンマが義弟を苛む。度重なるストレスのせいか、どことなく義弟のしゃべり方は幼児退行しているようだ。
同情でも偽善でも我慢ならなかった。俺はその震える肩を掴んで、こちらを向かせた。
「…俺はお前の兄ちゃんだ。
…家族だ。迷惑じゃない。何も迷惑じゃない。兄ちゃんはどこにも行かない。絶対にだ。」
「ほ、ほんとう?おれ、も、やだよ、やだよぉ…。兄ちゃん、絶対、おいてかな、でっ」
おいてかないで、涙が零れた。
俺はその肩を抱きしめながら、本当に弟の兄ちゃんになってやろうと思った。


おわり





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