「足もと所々ぬかるんでますので、十分注意して歩いて下さいねーっ」


ここは「刻む湖:ヴィント」。
今日はこの場所の調査だ。虧も今回は壱組に交じって調査の手伝いをすることになっている。

朔、キイチ、喰、虧、无、花礫と揃ったところで、ヴィントの役員の紹介へと移った。

「研案塔「生命室」所属、ムラノです。ここに派遣された5年になります。」
「同じくイソサです、5年です」
「太文です、2年です」

ムラノは眼鏡をかけた頭の良さそうな男性。イソサは明るい女の子。太文は文字通り太い体をした男性だ。

3人の紹介の後、糺がヴィントについての説明を始めた。
ここ最近、ヴィントでは変死、密猟者の死体などが多く発見されるとのことだ。

この糺という男、問題のおこったリノルでは无や花礫と一緒にいたらしい。


「では効率よく二手に分かれて調査します…、メンバーはそうですねー…」

「虧、お前はもちろんコッチだろ?」
「うん!」

研究者としての血が騒ぐ!
もちろん、虧は朔と一緒に水の成分調査だ!

「花礫、お前も俺と来るか?例の空の飛び方教えてやるぜ?」
「行く」

「俺も…っ」



「あれ?无ちゃん、は」

フと无の声がした方を振り向いた虧だったが、気付いた頃には无はもう喰に連れ去られていた。

「あーあ…」



●○●

「輪のブレスはな、ここの生物の細胞が使われる」
「細胞?」
「変わる地形、変わる水量、多く差し込まない太陽。ここの水温はとても冷たい。豊富なエサも育たず、上の地形が変わり雨水を落とさなくなれば、そこにあった湖は死んだ。」

湖の水を掬い上げ、朔が花礫に説明をしている。
その横で虧も湖の水を眺めている。

「与えられない糧、過酷な環境。生きる事に精一杯だ。ただただ生き残る為に、強く強く己を変えていった。結果―― その生物は環境に耐える為にエネルギーの量産と再生能力を特化させる変身を遂げた。だがその犠牲が―― 他の機能はすべて退化させてしまった。

 けどな、俺は思うわけよ。無くさざるを得なかったものも、自分を囲んでいた壁が昔よりも崩れ、太陽が差し込み始めてる事に気付けば、取り戻すんじゃねぇ?て・・」


「・・朔さん、」

「ん?虧もそう思わないか?」
「ん」

それは、自分にも向けられた言葉なのか・・。
虧は小さく返事を返した。



mae | tugi



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