「燭先生います?」
研案塔に立ち寄り、燭がいるであろう部屋に顔を覗かせる虧。
しかし、その場に燭はいなかった。
「あれ・・出張?では、ないよね」
仕方なく踵を返した虧の目の前に、白く長いシルクハットが現れた。
「おわっ!! 療師!」
「ホホ、久し振りじゃのう虧」
「久しぶりです。それより、驚かさないで下さいよ!」
「驚かせるつもりはなかったのじゃが・・すまなかったの」
柔らかい雰囲気、そして笑顔を絶やさない療師を目の前にし、虧は大人しくなった。
「燭に会いに来たのか?」
「え、まあ・・でもいないみたいですね。出直します!」
「コラコラ、少し茶でも飲んでいかんか、お菓子もあるぞ」
「・・是非!」
療師の提案にパッとのった虧は、療師の後に続いて研案塔の中を歩いた。
「好きなものを取ってくれて構わんよ」
「ありがとうございます。・・・でも、コレ」
「なんじゃ?」
「お菓子の量尋常じゃないですね、」
目の前に置かれている山のような菓子を見て虧は少しばかり青くなった。
「これ・・1つとったら雪崩れるとかないですよね」
「大丈夫じゃよ、ホレ紅茶じゃ」
「ありがとうございます。療師にお茶を淹れていただいたなんて燭先生に怒られそう・・」
「それも心配ない」
虧に向かい合うように療師は腰を降ろし、自分の分の紅茶に口をつけた。
「燭は今ちょっとした調査に出かけておる」
「え、大丈夫なんですか?輪の人つけなくて」
「大丈夫じゃよ。危険なものではないからの」
「はあ・・。なら、」
お菓子の山から1つ慣れた手つきで抜き取り、療師はそれを口にした。
「お前には感謝しておるのじゃ」
「感謝・・ですか?」
「燭が丸くなったのじゃ、虧のおかげでな」
「いや、感謝しているのは私の方です!燭先生という素敵な先生に巡り合わせてくれて・・、療師が燭先生を私の担当にして下さったんですよね。」
「そうじゃな。じゃが、燭と共に成長してくれたのはお前じゃ虧。これからも燭のことをくれぐれも頼むぞ。」
「・・はい!」
フッと笑った療師に向かい、虧も笑顔で返事を返した。
「ホレ、虧も菓子を食べなさい」
「あ、はい!頂きます!」
療師に促され、虧は嬉しそうにお菓子を口にした。
この恋に涙は必要ない
mae | tugi