「程よく肌寒い。といったところか」
「ワインを楽しむには絶好ですね」
平門と虧は貳號艇のハッチにいる。
珍しく虧が機嫌よく平門と話をしているのは、お酒が入っているところが大きいような気がする。
「こうして時間を静かに過ごすのも良いな」
「ですね」
特に話は発展しないのだが、それでもその場の空気は心地よい。
「そういえば、」
「はい?」
「以前、喰達と将来の話をしていたそうだな。」
「将来・・?ああ、艇長になるならってやつですか?」
「ああ。虧にその気はあるのか?」
「まあ、格好良いと思いますし・・バンシー使ってみたいし、」
虧は自分の指をゆっくり折り曲げながら、艇長になりたいと思った理由をぽつぽつ口にしていった。
「それは、私のことも”格好良い”と思ってくれている、と取っていいのか?」
からかうように言う平門に、いたって真面目な口調で虧は答えた。
「平門さんは、格好良いと思いますよ」
「・・・プッ」
「え!?」
急に吹き出した平門を見て、虧は驚き口をぱくぱくさせた。
「素直に吐いたのに!それを・・!笑うなんて!!」
「いや・・、すまない・・・クク・・だがそうか、それが本性なら嬉しい限りだな。」
「は・・ぁ?」
未だに笑っている平門を見て気の抜けた虧は、顔を引き攣らせつつワインをゆっくりと口にした。
「いや、てゆうか・・多分世の女性ほとんどが平門さんのこと格好良いって思うと思いますけど…?顔の構成だって、素直に羨ましいくらい整ってるじゃないですか」
「・・そうか?」
「そうです。燭先生には平門さんのこと好きな女性は趣味悪いと思われそうですけど」
「それは、確かにな。」
虧の言葉に返事を返しつつ、平門もワイングラスを口元に持っていった。
「ああ、でも・・」
「はい?」
「さっきの言葉は、虧の個人的意見として受け取っておく。」
「そちらの方が嬉しいからな」と、わざと虧の耳元で甘ったるく語る平門の攻撃に、不覚にも虧は腰を抜かしてしまった。
「――――ッ!!!平門さんッッ!!!!!なにしてくれるんですか!?」
「――ハハッ、」
「また笑った!!」
「いや、まさか腰を抜かすほど良かったとは、思わなかったから」
「待って!ちょっとソレ!その発言はそこだけ聞いた人がいたら絶対に誤解される!!」
「まあまあ、それはそれでいいんじゃないですか?」
「よくないッ!!」
アルコールのせいか、はたまた平門のせいか、顔を真っ赤にした虧は、ハッチの冷たい床に座り込みながら抗議をした。
「・・平門さん、」
「なんですか?」
「運んで下さい」
「おや、珍しいですね。虧からそんな催促があるとは」
「ちょっと!この状況分かって言ってるんですよねその言葉!?」
「はい。少々お待ち下さいお姫様。」
そう言って、平門は一つ虧の髪の毛にリップ音を残し、フワッと優しく彼女を抱き上げた。
「お部屋まで、ご案内します。」
「・・お願い、します」
そう返事を返し、虧は素直に平門の首へ腕をまわし、きゅうっと抱きついてみせた。
ほんのりと甘い香りが虧を包みこんだ。
穴の底にいればすべてが明るい
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