「・・寂しい」


「私が目の前にいるのにそんな事を言うのですか?」
「平門さんじゃあこの寂しさは癒されない」

テーブルにつっぷし、目の前で紅茶に口をつける平門のことなど気にもしない様子の虧。
その後も「寂しい!」を連発した。


「寂しいから私の部屋に来て、結局口を開けばそれでは失礼だと思いませんか?」
「・・。平門さんに対してそんな感情湧きません・・・」
「全く。いつになったら私に対するその態度は治るのですか?」
「治りません」

テーブルに顎だけをのせ、無気力に虧は言葉を返す。


「燭さんが良いのなら、研案塔に行けばいいじゃないですか」
「無理です。夜中だし、迷惑だろうし・・燭先生忙しいから、」
「私だって忙しいんですけど?」
「平門さんは私のことからかうし、いいように使うし、」
「それは・・上司ですからねえ」

困ったように言う平門だが、その顔は何故か笑っている。


「・・・。」

それでもなお、自分の部屋から出て行こうとしない虧に対し、ため息をつきながら平門は続けた。


「気が済むまでここに座っていればよいでしょう。」
「ええ、全く」

「・・・その返しはおかしくないですか?」
「そんなことないです。」

「寝るならどうぞご自由にソファを使って下さい。」


そう言い残すと、平門は虧を残し部屋を出て行った。



「バカ平門〜」

「なんですか?」
「ぎゃああああッ!!!!」

「私は自分を天才だとは思っていませんが、馬鹿でもありませんよ。」

「なんでいんの!!」
「ああ、忘れ物をしたな〜と思いだしましてね」
「―――・・」
「さあ、行きますよ虧」
「は?」

「これから燭さんの所に行く用事があったのをすっかり忘れていましたので」

「ハア!??」

「さ、行ってお酒でも呑みましょう。時間的にもいい頃ですし」

そう言って虧の腕を引っ張る平門を見て、虧は思った。


「(やっぱり・・平門は食えない!!!!)」

燭に会えるのは嬉しいが、なんとなく複雑な気持ちになった虧だった。



静かな夜に向かい合うこと





mae | tugi



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