「燭先生、燭先生、」

先日、燭が救出した少女虧は、未だに食欲がないのか、点滴で栄養補給をしている。
しかしながら、彼女の顔には笑顔が見えるようになっていた。


「・・なんだ?」
「お仕事忙しいんですか?」
「ああ。」

極めて短い返事を返す燭。
それに「そっか」とこちらも短く返事を返す虧。
冷めているような会話だが、この空間が冷え切っている訳ではなく、むしろ温かだ。

「この腕・・・なんか変です」

「我慢しろ、慣れるまでだ」
「・・はい」

左腕を無くした虧は、義手を付けての生活が始まった。
左肩に残った神経に作用し、元々ある腕や指の動きを再現する。
しかし、やはりまだそれには慣れていないらしい・・。


「燭先生?」
「なんだ?」

こんな会話が何回も続く・・。

「外、出てみたい、・・かも」


「・・・」

それは、燭からしても意外な言葉だった。
あの日、虧を助けた日から虧は病室からかたくなにでようとしなかったからだ。


燭は、走らせていたペンを止め、虧の方へ向いた。


「・・出るか?」
「いいんですか!?」
「研案塔の中庭なら問題はない」

「やったー!!ありがとうございます!!」

本当に嬉しそうに笑った虧。
少しずつではあるが前向きに進んでいる虧を見るのは燭も嬉しいことであった。


「では、行くぞ」
「はい!」

自分と10近く年の離れた少女と肩を並べて歩くのは、燭にとって奇妙な感覚だった。



「・・、手を貸せ」

「――!!」

付いて来るのがやっとな様子の虧を見て、燭は少し考え手を差し出した。
その手を、嬉しそうに虧は握った。


「燭先生とお散歩〜!」


「・・全く、」

目をつぶり、ため息を小さくつく燭だったが、2人の間に流れる空気はやはり温かかった。



広くて狭い歩幅の二人






mae | tugi



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