研案塔内に入ると、そこには夜だというのにせわしなく動き回る人であふれていた。
「それで、どうなんだ」
燭は近くにいたナースにすぐに声をかけた。
「はい。そこまで傷は深くないんですが、傷の数が多く」
「分かった。すぐにその人物の所に案内しろ」
「はい!」
「虧、」
「あ、はい!」
「さっきも言ったが、平門から連絡があればすぐに其方へ向かえ。いいな」
「はい」
ナースと共に走っていく燭の後ろ姿を見ながら、少しばかり虧は寂しさを感じていた。
「(こんな時に・・ダメだなー私・・・)」
携帯をチェックするも、平門からの連絡はきていないし、きそうにもなかった。
「傷も深くないって言ってたし・・(與儀辺りが行ったのかな)」
研案塔の中を走るナースやドクター。
何もすることのない虧は、1人騒がしい研案塔の一角に座り込んだ。
「アナタは・・」
「へ?」
頭上から声がして顔を上げると、そこには昼間一瞬顔を合わせた白衣の男がいた。
「こんな所でなにをしてるんですか?」
「あ・・っと、能力体に襲われた人が来たって聞いて」
「だからといって、アナタが来る必要がどこに?」
「えっと、何かもしかしたら出来るかもしれないし・・」
丁寧な言葉で話す男だが、その声色には棘が多く含まれているように虧は感じていた。
「アナタに助けてもらう必要なんてありませんよ。だいだい、なんでアナタの様な人が燭先生の隣をうろついているんです」
「えっ・・」
あからさまに嫌な顔をした相手に虧は一瞬怯んだ。
能力体やヴァルガ、火不火、一目で敵と解るモノからの自分を殺そうとする視線には慣れていた。しかし、協力体制にあるはずの研案塔で働く人物からこんな風に見られるのは抵抗があった。
「燭先生もそうです。何故アナタの様な役立たずを側に置きたがるのか」
「役・・ッ!?」
そこまで言われては黙っていられないと虧は言い返そうと前のめった。
「だって、そうでしょう?」
「アンタ!いい加減にしなさいよ!?」
「だいたい、立場が違うんですよ。何を良い気になっているのだか知りませんが。輪であるアナタが、燭先生のように立派な方に関っていいはずがないでしょう。アナタの様な人がいるのは燭先生にとって迷惑です。」
「ちが・・」
「燭先生の邪魔にならないよう、早く離れた方がいいですよ。燭先生はご立派なお方ですから。アナタがそう良い気なのがいたたまれなくて共に居てあげているだけです。そんなことも分からないとは・・やはり輪は」
「言いたいことはそれだけか」
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