眠れねぇ、

厳しい訓練で体は疲れているはずなのに今日はやけに目が冴えていて眠気がまったくこない。瞼を閉じても、聞こえてくる他人の寝息や時計の音が気になりどうも落ち着かず、ごろごろと寝返りをうってリラックス出来る体勢をとっても一向にやってこない眠気にいい加減イライラし始めた。

クソッ、これじゃあ時間の無駄だ。

周りを起こさぬ用そっと寝台から降りる。こんな高揚する夜は初めてだ。

外の空気に触れ気分を落ち着かせようと寮から出るとちょうど雲間から月が顔を覗かせ地面が明るくなった。

世界はこんなにも残酷なのに夜空に散りばめられた星は美しく、キレイだった。いつかこの世からアイツらがいなくなったら、今度はどんな気持ちでこの空を見上げることが出来るのだろうか。大切な人の隣りで顔を見合せながら笑いあいながら他愛もない話をして冗談を言い合ったり出来る日は来るのか。

人類が巨人に勝てる日なんて来るわけがない。皆、決して口には出さないが大体のやつはそう思いながら僅かな希望を持って今を生きている。

「なんでこんな世に生まれてきちまったのかな」

「戦うためだろ、この世界と」


独り言を呟いたはずなのに、
振り返ると見たくもない顔が立っていた。

「なんでお前がここにいんだよ」
「窓からジャンが出ていくのが見えた」
「追いかけてきたっていうのか」
「そうだけど?」
「なんなんだよお前…」
「眠れないのか?」
「…あぁ、まあ…そうだな」
「じゃあちょっと話そうぜ」
「なんだよ、別に俺は話すことなんてないぞ」
「俺が話したいんだって。お前と」
「はぁ…?」
「あそこに行かないか?」

エレンの指した方向にあるのは以前は宿舎として使われていた小屋だった。現在は物置小屋と化しているがしっかりと施錠されている。

「鍵かかってるだろーが…」
「中に入るなんて言ってないだろ?」

エレンがにやりと笑う。

「昇るんだよ、屋根に」
「は…、お前本気で言ってるのか…?」
「当たり前だろ、行こうぜ」
「バカか、落ちて怪我でもしたらどうするんだ!」
「落ちねぇよ、それとも何?怖いの?」
「…煽ってるつもりか?」
「ゴチャゴチャうるせーな、いいから来いって」
「お、おいっ!」

バッと腕を掴まれぐいぐいと引っ張られる。抵抗するのも面倒で仕方なく小屋の前まで来るとエレンは手首をならし屈伸をし始めた。

「おいおい、どうやってのぼんだよ」
「なんだ?お前は隣りに生えてる木が見えないって言うのか?」

この木をのぼって小屋の屋根に飛びうつれってか。出来ない距離じゃない。が、なぜこんな面倒なことをしてまでこの場所を選ぶのか俺は理解が出来ない。

そんなことを考えている内にエレンは屋根に飛びうつったようだ。はやく来いと手招きをされる。


…俺は、お前と話すことなんざ一言もねぇってのによ。

仕方なく枝にあしをかけなんとか屋根にうつった。


「おせーよ」
「…うっせ」
「まあいいや、座れよ」
「…で?」
「ん?」
「なんだよ、話って」
「あぁ………」
「……」
「んー……」
「……」
「んんー……」
「……」
「あっ…星がキレイだなー」
「…お前何も考えてなかっただろ」
「まあ、いいじゃん!なんでも!」
「お前な…」
「俺は、ジャンと話がしたかった。内容なんてどーでもいい」


二人の間に風が吹く。
ひんやりと冷たい屋根の感触。

なんとなくだが、気づいていた。
最初は気のせいだと思っていたのに日に日にエレンからの視線に気づくことが多くなった。俺がみているのはミカサ、のはずなのに。

「なぁ、ジャン」
「なんだよ」
「俺は、後悔はしたくない。いつ死んでもおかしくない、そんな世の中だからこそ伝えたいことははっきり言うべきだと思う」
「…」
「でも怖いんだ。拒絶されることが。伝えることによって俺の自己満足で終わることは目に見えてる」


エレンの声が心なしか震えているように聞こえた。

「そんなの、言ってみなきゃ分からないだろ」

分からない。
結果なんて予想は出来ても100%とは限らないんだ。


「なあ、気づいてるんだろ?」


あぁ、気づいてる。


「なんでだろうな、最初は大嫌いだったんだぜ?」


俺もだよ、お前なんか大嫌いだった。


「なのになんで、」


なんでだろうな。


「いつの間にかお前を目で追ってた」


「好きだ、ジャン」


月が雲間に隠れ視界が暗くなった。
エレンの目が真っ直ぐと俺に向けられる。なんて言うべきなのか。
少し前の俺だったら間違いなく拒絶していた。だが、エレンの気持ちに気づいた頃、自分の中で何かが変わった。俺が見ているのはミカサなのか、それとも…。

気づきたくなかった、でももう遅い。



「エレン」
「………」
「俺はお前が大嫌いだった」


ビクッとエレンの肩が揺れる。
あぁ、とうとう認めてしまうのか。
でも俺だって後悔はしたくない。

「お前は勘違いをしている」
「…かんちがい…?」
「俺はお前を…、エレンを拒絶しない」
「どういうことだよ?」


心臓がうるさい。
バクバクとあり得ないはやさで波打ち、身体中が熱くなる。めんどくせぇよ、ホント!とっとと言っちまえ!意を決して口を開きかけた瞬間、やわらかい感触がした。目の前にはエレンの顔があり、後頭部に手を添えられている。

「なんだよ、ジャンも俺のことが好きだったのか!」
したり顔のエレンに状況判断が出来ず固まる情けない自分。

「お、おま、え!何し―…んんっ」

触れるだけのキスなんて物足りないとでもいうかのように口内で交わる舌。

厭らしい水音と溢れる唾液角度を変えて何度も降ってくる口づけに全身の力が抜け、チャンスとばかりにエレンはジャンを押し倒した。


「お、いっ!何すんだ、…よっ!」
「何って……セック―いだっ」
「バカか!お前はバカなのか!?」
「ハァ!?馬鹿じゃねぇよ!恋人になったんだしいいだろ!」
「なってねーよ!第一俺はまだ好きって言って……あ、」
「言ったじゃん、今」
「…〜っ!!」
「俺今まですんごく我慢してたからさ、…いいだろ?」
「いいわけねーだろ!場所考えろ!」
「じゃあ寮に戻ればいいんだな?」
「お前はヤることしか頭にないのか!あ?」
「そんなわけないだろ!俺はジャンのことメッチャ愛してるよ!」
「!!!」



誰かこいつに羞恥心というものを教えてやってくれ!

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