ちゅ、というリップ音とともに離れる唇が惜しくて目を開けるとにっこりと微笑む庄左ヱ門の指先が頬に触れた。わずかな温もりも愛しくて自身の指を重ね、この距離がもっと縮まればいいのにと何度も思う。ずっと傍にいれればいいのに、僕たちを邪魔するものが全て消えてしまえばいいのに。どろどろと溢れ出す願望を振り払い庄左の胸に抱きつくとゆっくりと髪を撫でられる。

「彦は甘えたさんだね」
「…悪いか」
「ううん。可愛いよ、とっても」
「可愛い、は…余計だ」
「ふふっ、顔真っ赤だよ?」
「うるさい」

伝七になぜ庄左ヱ門を選んだのか、と聞かれ僕は答えに困った。そんなことを問われてもいつの間にか惹かれ気づいた時には唇を合わせ抱き合っていた。人を好きになるのに理由なんてないということを身をもって経験した。同性であることが問題だなんて思わない。僕は黒木庄左ヱ門という人間に惚れたんだ。生物の本能としては外れているかもしれない。だが、理に縛られ気持ちを押し殺して生きるくらいなら僕は死んでもいい。それくらい僕にとって庄左ヱ門は大きい存在になっている。後戻りは出来ないしするつもりもない。

「彦四郎」

名を呼ばれ胸元に埋めていた顔をあげるとふたたび唇が合わせられた。

室内には衣擦れの音と二人の息遣いが響く。


「ねえ、彦四郎」
「…んっ…?」
「愛してるよ」
「……ん」
「彦は?」
「…僕も、」
「ちゃんと僕の目を見て」
「っ愛してるよ…!」
「ふふっ、知ってる。僕がいなきゃ彦四郎は生きていけないもんね」
「そうさせたのは庄左ヱ門だろ」
「ダメだった?」
「ダメじゃない」
「ならよかった」



満足そうに笑った男の手にはいつの間にか僕の腰紐が握られゆっくりと解かれた。


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