※成長



「彦ちゃん」


頭上から降ってきた声が誰のものかなんてすぐに分かる。書物から目を離し、上を見上げると歯を見せて笑う団蔵の姿に顔をしかめた。

「今いいところなんだ、後にしてくれ」

「やだ!かまってよー!」

小春日和で絶好の読書チャンス。僕は燭台の明かりで本を読むよりも初冬の澄んだ空気を感じながら読書をするのが好きなんだ。邪魔をするな、と片手で犬を追い払うように手を振るとズシッと団蔵がのし掛かってきた。だらりと垂れた腕を見て口元がひきつった。いくら暖かいとはいえ冬に腕捲りをするやつがいるか、見てるこっちが寒くなる。


「彦ちゃんあったかいね」
「団蔵は冷たい」
「じゃあ彦ちゃんが俺を暖めてよ」
「断る」
「じゃあ断るのを断る!」
「どうでもいいから離れろ」
「彦ちゃん冷たい…俺寂しいと死んじゃう病なんだよ?」
「…なんだそれ」
「知らないの?俺は彦ちゃんに冷たくされたり、無視されたら死んじゃうんだよ」
「ふーん、じゃあ無視し続ければおとなくしなるってことか」
「えっちょ、やだ!嘘!冗談!!」
「……」
「やーだーー彦ちゃんかまってよー!」


頭が痛くなりそうだ。ていうかもう痛いかもしれない。後ろから団蔵の両腕が僕の腹にまわされ肩に顎をのせた。背中には身体がぴったりとくっつき身動きがとれないし本を読める状態ではない。せっかくの貴重な時間だというのに団蔵のせいで台無しだ。毎回こうして邪魔をされるので一向に頁が進まない。仕方なくパタン、と本を閉じると瞳を輝かせかまってくれるの!?と言う団蔵の声を無視し思いっきり後ろに体重をかけてやった。

「お、おぉ……」
「…なんだよ」
「なんか…アレだよね。彦ちゃんって急にデレがくるよね」
「別にそういうつもりでやったわけじゃないけど」
「で、でもね!俺からしたらいつもツンツンしてる彦ちゃんがこうして距離が近くなるだけでも嬉しいというか…!」
「…もういいよ静かにしてて。眠くなってきた」
「え、寝ちゃうの?外で寝たら風邪ひいちゃうからふとんまで運んであげるね!!俺の部屋でいいよね!?」
「なんでお前は下心というものを隠そうとしないんだ…」
「だってしょうがないじゃん!好きなんだもん!いちゃいちゃしたいんだもん!」
「だもんとか気持ち悪いよ団蔵」
「ひど!でも俺知ってるんだ。彦ちゃんが毒舌な時って照れてる時だってことを!」

勝手な解釈をするな、と後ろを振り返ろうとした瞬間突然の浮遊感に混乱した。軽々と持ち上げられるような体格な自分に溜め息をつきたいところだが相手が学園の一、二を争う筋肉バカなので仕方ないと思うことにする。


「よーし!行き先はどこにしますかお客様!」
「下ろせ」
「はい了解しやした!俺の部屋までいけいけどんどーん!なんちて」
「聞いた意味あるのか」
「まあまあ!所望はおふとんの中で聞きますから!」
「えっ、ちょっと待て」
「つかまっててね〜!」
「待て!ふとんの中って、」



いい終える間もなく走り出した団蔵に必死にしがみつく。気づいたらいつも僕は団蔵のペースに巻き込まれていて結局は甘やかしてしまうのだ。今からでも躾をしたら間に合うか?とチラッと団蔵を見上げると満面の笑みを返された。


「へへっ!大好き!」
「…はあ、」
「なんで溜め息!?」



こんな表情ひとつで胸が高鳴るなんて団蔵には絶対に言えない。


「ん?彦ちゃん何かいった?」

「…なんでも」


僕は甘いな。



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