現代
HRが終わり教室から出ると突然呼び止められ紙袋をつき出された。
「あ、あのっ、これ調理実習で作ったんでよかったら食べてください!!」
そういうと僕の返事も聞かず女の子は走っていった。ブレザーのエンブレムの色から判断すると一個下であるということはわかったが名前は知らない。一瞬の出来事に返す言葉が見つからず思わず受け取ってしまった紙袋を覗いてみるとあまったるいカスタードの匂いが鼻につき顔をしかめた。
僕は甘いものが苦手なのだ。
それに女子からこんなものを受け取ってしまったことが兵太夫にバレれば面倒なことになるに違いない。かといってゴミ箱に捨てるというのも気が引ける。
仕方ない、誰か教室に残ってるやつにでも渡そうと後ろを振り返ると悲鳴をあげそうになった。
一番恐れていたことが目の前で起きた。ものすごい笑顔で僕の手に持っている紙袋を指差し声には出ていないものの口の動きで分かる。
今 す ぐ 捨 て ろ
ゾクッと背筋が震えた。
ていうかこれは不可抗力じゃないのか?言い方が悪いが無理やり押し付けられたに近い形だったぞ!僕に非はない!
つかつかと歩み寄る兵太夫にガシッと手首を掴まれ廊下を早足で歩く。
「い、ったい…!へいだゆっ」
「……………」
僕の声にピクリとも反応せずやつはさらに力をこめた。絶対痕残るだろ、これ。
校門を出て、どこに向かうのかと思えば普通に兵太夫の家に着いた。乱暴に鍵を差し込み僕は玄関に放り込まれた。手首は痛いし、床に尻はぶつけるしコイツは僕をなんだと思っているのだ。睨んでやろうかと顔を上げると怒っているとばかり思っていた兵太夫は口元に笑みを浮かべていた。
「何か企んでる…だろ」
「いーや、別にぃ」
語尾が上がっているし、これは絶対に何かよろしくないことを考えているに違いない。
「ちょっとイイコト思いついちゃっただけ」
ニッコリと僕の持っていた紙袋を奪うと中から甘ったるい匂いの正体“シュークリーム”を取り出し一口かじった。薄い皮からカスタードと生クリームがどろりと出てくる。
一体何がしたいのだ、
僕が首を傾げると兵太夫は声を出して笑った。
「まだ分かんないの?伝七ちゃん」
「わっ、わかるかよ!何がしたいんだ!」
「言ったらやってくれるの?」
「誰がやるか!」
「伝七に拒否権なんてあると思う?」
「な…っ」
「無いよねぇ?」
「……っ」
手に持っていたシュークリームのカスタードを指にとり僕の頬につけた。当然のように重力によって下に落ちるわけだが、べったりとしたクリームは首もとにつき、制服のシャツについた。ブレザーが汚れてしまうのだけは面倒なので脱ぐと兵太夫に奪われ今度は優しく手を引かれた。
「せっかく作ってくれたんだから食べてあげないと可哀想だもんね。でも伝七は甘いもの苦手でしょ?」
「あ、あぁ…」
「だからね、変わりに僕が食べてあげることにした」
「……え」
「さっきちょっと食べてみたんだけど残念ながら僕はもっと甘いものが好きだから」
そこまで言われようやく気づいた。
あぁ、なるほど
兵太夫が部屋のドアをゆっくり開け、覚悟してよねと小さな声で呟いた。
食べられるのは、