室町/成長






「もしも、この世界が終わるなら彦はどんな最後を迎えたい?」


「…は?」

突然何を言い出すのかと思えば、


らしくない、
いつも冷静沈着でみんなから頼りにされていて成績だって実技だって優秀な庄左ヱ門がこんなことを言うなんて。


「なんで急にそんなこと、」

「まあ、いいじゃないか」





ふたりきりの室内に声が響く。
お互いに別に用事はないけれどなんとなく、満月の夜は委員会で使用している部屋に足を運ぶことが暗黙の了解となっていた。


今日は燭台の灯りが必要無いくらい月が部屋を照らしている。読みかけの書物を閉じ、庄左ヱ門の方へ振り向くとじっと月を見つめていた。


「…庄左は、?」

「僕が彦に質問している番だよ」

今度は首だけ僕の方へ振り向きいつものように優しく微笑んだ。


「そんな急に言われても、」

「難しく考える必要ないよ」

「…………」



そりゃあ、最後は両親と学園のみんなや先生方と…大切な人と、最後を迎えたい…と思う。

そう庄左ヱ門に伝えると目を細め「そう」と短く答えた。

「僕は答えたぞ。今度は庄左が答える番だ」

「僕も一緒」

「なんだよ、結局普通じゃないか」

「じゃあ少し欲張ろうかな」

「…は?」



ゆっくりと立ち上がると僕の隣に腰を降ろした。

何がしたいのが分からず、庄左の行動を凝視していると僕の方をじっと見つめてくる。いや、本当に何がしたいのかまったくわからない。

「何がしたいんだよ?」

「何って…わからない?」

「わかるか!」


じゃあこうしたら分かる?
そう言うと頬に手を添えられ一瞬唇が触れあった。


「分かった?」

「ちゃんと…説明してくれなきゃ分からない」


触れあった唇の感覚が、
庄左の吐息が、
僕にはまだ刺激が強い。

開けっ放しの戸から夜風が入り、庄左の髪が揺れている。頬に添えた手と唇に触れている指が熱い。夜風と一緒に僕の顔の火照りも冷めてくれないかと願うが目の前から庄左が退かない限り叶うことはないだろう。


「なんでこんなに苦しいんだろうね」

「…苦しい?」

「彦に忘れられてしまうことが、苦しいんだ」

「ちょっと待て…何の話をしてるんだ?」

話が飛躍している。僕たちは確か“もしも世界が終わってしまうならどんな最後を迎えたい”か話していたはずだ。それがなぜ僕が庄左を忘れてしまうという話になったんだ。

「死んだら輪廻するだろう」

「…それが?」

「生まれかわって、また彦が僕を忘れてしまうのだと思うとね、」


輪廻転生したら記憶なんてなくなってしまうのだから当然ではないか、と思ったが庄左の言葉に何かひっかかった。


「そんなの、分からないだろ」

「……そうだね」


前世の記憶だとかそういう類いの話しを僕はあまり信じていない。確証の持てない話に価値は無いと思っている。まさか庄左がそんな話を信じているなんて思わなかった。


「彦、抱き締めていい?」

「…聞く意味あるのか」

抱き締められ庄左の匂いが鼻孔を擽る。同時に胸の鼓動が伝わり不思議と安心する。

「最後はこうやって彦を感じて眠りたいね」

「縁起でもないこと言うな」

「本望だよ」

「今日の庄左おかしいぞ」

「…………」

「庄左…?」

「僕は、」

「…?」

「また彦を好きになるよ」

「な、にいって…」

「何度生まれかわっても彦を好きになる」

「庄左……」

「だから彦が僕のことを忘れてしまってもかまわない」






何を言っているんだ
僕にはなぜ庄左が泣いているのか分からない。






きっとこの先も僕はその理由を知ることはなく人生を終えるだろう。そしてまた生まれかわった時、同じ言葉を耳にするだろうけど僕は知らない。

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