課題が一段落し、今から寝ようとしていたらベッドに無造作に置いてあった携帯のランプをぴかぴかと光っている。マナーモードにしていたためメールが届いていたことに気づかず放置されていた携帯を開きメールを見て固まった。
現在の時刻はPM12:34
メールが届いた時間はPM12:03
ちなみに内容は今すぐにいつものコンビニに来いとのこと。
死亡フラグ…というやつかこれは。
着信も何件も入っていて背筋が寒くなった。急いでかけ直してみると明らか不機嫌な声で「あと3分以内にこないと別れるから」と言い通話が切れた。一方的すぎる。今何時だと思ってるんだ。もう日付をまたいでいるし明日から夏期講習が始まるから出来れば睡眠をとっておきたかった、と頭の片隅で思いつつ急いで家を出た。
夏の夜道をこんな全力失踪したのは生まれて初めてかもしれない。
昼間よりはいくらか涼しいが走っているせいで体温が上がる。額にじんわり汗が滲みようやくコンビニに着くと店の前で笑顔で仁王立ちをしている兵太夫がいた。
「はーい遅刻。別れまーす」
「3分っ、で!着くわけないだ、ろ!!」
「そんなの知ってるし」
「無茶ぶりさせるな…はぁっ、」
「許してあげるからちょっと付き合ってよ」
「は…?どこに…?」
兵太夫がにやりと笑った。
もう嫌な予感しかしない。
どこにつれてこられたのかと言うと近くの小学校だった。いくら母校であっても勝手に忍び込むのは不法侵入だ。でも兵太夫はなんとかなるでしょとどこ吹く風でさっさと校門からスタスタと中へ入っていってしまった。しかたなく後をつけて中に入ると立ち止まったのは夜風にのって塩素の匂いがほのかに香るプールだった。もちろんフェンスで囲まれていて入り口には鍵がかかっている。兵太夫がボソッと開けられないことはないけど流石にやめとこ、と呟いたのが聞こえた。ピッキングだけは僕も全力で止めようと思う。どんだけ犯罪に手を染める気なんだお前は!
ガシャンと金網を上り針金に気を付けながらコンクリートの上に降りた。
水面に月が反射してゆらゆらと映っている。月が出ているおかげで明るくプールの底の水色まではっきりと見えた。
「伝七、携帯貸して」
「え?なんでだよ」
「いーから。貸せよ」
「?…はい」
逆らうのも面倒(というか出来ない)ので素直に渡すと仕舞い忘れたのであろうビート版の上にぽいっと投げられた。
「ちょ、乱暴に扱うなっ!?うああぁっ!!!!」
何が起きたのか一瞬理解出来なかった。口の中にガバガバと水が入ってきて体が重たい。ぷはっと水面から顔を出すと兵太夫がケタケタと笑っていた。
「な、なにするんだよ!!?」
「突き落としてみた」
「バカか!!!」
当たり前だが全身びしょ濡れだ。
服が水を含んで体に張りついて気持ち悪い。せめて服を脱いでから入りたかった。
「ねえ、気持ちーい?」
「ぜんぜん」
プールの水は少しぬるかった。
兵太夫が着ていたTシャツとあとポケットに入っている携帯を丁寧に地面に置いた。
おい、まさか…
「伝七、受け止めてね?」
「ちょ、待て!!」
ざぶーん
水しぶきが辺りにはねる
僕も兵太夫もびしょびしょだ。
「ちゃんと受け止めろよ下手くそ」
「出来るか!!」
なんとか受け止め改めて正面を向くと顔が近い。兵太夫が僕の後頭部に腕を回すとさらに距離が縮まった。顔が近い。心臓がバクバクしてうるさい。
二人の吐息と目が合ってゆっくりと唇を重ねた。
なんで僕はこんな強情でわがままなやつが好きなんだろうって思うけどいくら考えても答えは出せそうにない。