コレから続いてます
成長/3年くらい
「まじない…なんだ」
目の前で大きな目がさらに見開かれ固まる彦四郎に脳をフル活用させふり絞ってかけた言葉がコレだ。さすがにないと自分でも思う。相手が彦四郎でなければもっとマシなことが言えたと思うけどまず、いきなり接吻なんて普通はしない。けれどなんで自分がこんな行動に出てしまったのか分からない…けど激しく後悔しているのは確かだ。
「…え?まじない?」
「うん。彦四郎が自分に自信がもてるようになるおまじない」
「せ、接吻が…?」
「そう。唇を合わせ合うのはね、古くから伝わるまじないなんだ。言葉を発したり呼吸をしたり、食事をしたり口というのは身体の中で神聖なもので人と人をつなぐ大切なものでもあるしなくてはならないものだろう?だから僕にあるものを彦四郎に分けてあげたり出来るんだ」
「そ、そうなんだ!」
「だからね、逆も出来るわけなんだ。僕にないものを彦四郎から分けてもらえたりね」
「僕にあって庄左ヱ門にないものって…あるの?」
「たくさんあるよ」
「うーん…そうかなあ」
「あるよ、それよりビックリさせてごめん、」
「いや、いいんだ!むしろありがとう!なんか勇気でた気がする」
「それならよかった」
「うん!一平にも呼ばれてるし部屋に戻るね!」
「うん、じゃあね」
パタンと障子が閉められ安堵の息を漏らした。古くから伝わるまじないが接吻なんてデタラメにも程があるし苦しい言い訳だったと思う。彦四郎は納得してくれたけどそれが本心かどうかは分からない。彦四郎のことが気になり始めてからどうも冷静な判断が出来ないでいることに焦りを感じた。居心地が良い空間であると同時に距離が近いと心臓がドキドキとうるさくなる。毎回抑えるのも、表情を隠すのも必死だ。いつから友達という枠から外れて見るようになってしまったのか分からない。でも気づいてしまった以上はどうにもならない。好きだ、という感情をぶつけるには僕はまだ子供で時期じゃないように思う。不本意だが先手はうったのでもう少し待ってみようと思う。
それにしても……、
自分の右手で頬と耳を触ってみる。
うん、たぶん
隠せてなかっただろうな
顔の火照りを治めるため外へ出ると夜空に丸い月が浮かび廊下を明るく照していた。