僕とお祭り



「なぁ、祭りに行きたい。」



今日は日曜日、仕事もお休みだからリビングでまったりと過ごそうと頭の片隅で考えていたらふいに地域新聞を眺めていたタケさんは急にそんなことを言ってきた。(この人はもはや僕の家に居候状態だ)
何かと思ってタケさんの持っていた地域新聞を見れば地元の祭りを宣伝する記事が載っている。
祭りの開催日は今日の11時みたいだから、今から行ったら丁度始まるくらいに着くだろう。
そこまで考えてタケさんを見ればタケさんはサングラスの奥の目をきらきらと輝かせながら僕を見ていた。(なんて言うか…予想通り)
溜め息を一つ、僕は口を開いた。



「…祭り、行きましょうか。」



再び予想通り、タケさんは物凄く嬉しそうな顔をして大きく頷いた。





「うっわー活気ある祭りだなー!」

「大の大人が騒がしいですよ。少しは静かにして下さい。」

「そんなこといってもよー、祭りなんだからちょっと位ハメ外したっていいじゃねぇか。」



貴方はいつもハメ外してるじゃありませんか。
うっかり零れ落ちそうになった言葉を飲み込む。
タケさんの今の格好は狐のお面を横に被りいつものアロハシャツ。(サングラスは流石にかけていなかった)
手にはわたあめやら金魚やらを大量に持っていて遠目からでも目立つくらいだ。
まさに歩くお祭り男、本人は気付いてないのかもしれないけどいろんな人に変な目で見られてるよ。
どうしてこんな人と知り合ってしまったんだろう、頭が痛くなりそうだった。



「ヒナちゃんヒナちゃん!射的やろーぜ!」



ふいにタケさんに声をかけられ、僕は我に帰る。
タケさんの指差す方向を見ればたくさんの的のある射的屋さんで、小さい頃にやったな…とか懐かしく思っていたら射的屋から歓声が上がり始めた。
何事かと思って覗いてみると歓声の中心にいたのはタケさんで、百発百中って感じで的をどんどん落としていった。
鮮やかなその銃さばきに思わず声がこぼれる。



「タケさん凄いですね…。」

「まあ俺、スナイパーだし?」



こんなの朝飯前だよ。
笑いながらそう言うタケさんの言葉に僕は冷や汗を垂らす。(初対面でいきなり銃を向けられたしね)
冗談に聞こえないところが本当に怖い。
いや、タケさんのことだからスナイパーだということはきっと冗談じゃないのだろう。
僕はひきつった笑いを零すとそっと悲しいほどに快晴の空を見上げた。
前略御母様、僕はもう疲れました。





END

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