僕と絶体絶命


まさかあんな目に遭うとは思わなかった。



「おい。」



目の前にはスーツ姿で真っ黒いサングラスをかけた男。(ドラマに出てきそうないかにもって感じ)
人相も悪くて絶対そっち系の人だと認識した僕は気付かない振りをして立ち去ろうとしたんだけど、それも叶わず背中に感じた金属の感触に僕は大人しく両手を上げた。(あれ、こう言う展開前にもなかった?)



「榎本タケロウの仲間だろう?悪いが餌になってもらうぞ。」



ちょっと待て。
榎本タケロウってタケさんのこと…だろうね。(第一印象から最悪だった無精髭なアロハシャツ男!)
タケさんの仲間とか大間違いなんですけど!
僕はただのしがない調香師だって!(そして被害者だよ!被害者!)
…でもそんなこと言える訳が無くて僕は大人しく男に連行された。
下手したら死ぬんだろうね、短かったな…僕の人生。
心の中で合掌した時、すぐ脇で風を切るような音が聞こえたかと思うと僕より少し前を歩いていた男が呻き声をあげた。



「ぐぅっ…!」

「タケさんさんじょー!何捕まってんだよヒナちゃん。」


倒れた男の上に立ってたのは見覚えのある顔、タケさんだった。(飛び蹴りしたんだね、タケさん)
タケさんはべっこう色のサングラス越しに僕にウィンクすると急に真顔になって男にそっと囁いた。
何を言ったかはわからなかったけど見る見る青ざめていく男を見て脅されたんだろうってことはわかった。
今だけは同情してあげるよ、ご愁傷様。 逃げるように去っていく男の背を見ながらタケさんは言った。



「全くヒナちゃんってばドジだなぁ。」

「…ドジとかそういうの関係無くないですか?」

「あるある!俺だったらあんないかにもって感じの怪しい奴がいたら遠回りしてでも避けるもん。だって平和主義者だし?穏便に行きたいじゃん。」

「平和主義者は人を脅したりしませんよ。」

「…折角助けてあげたのになー。タケさんがいなかったからヒナちゃんは今ごろどっかの海の底に…」

「ああもうわかりましたよありがとうございました!!」

「どういたしましてー。ってことで今日は外食な!」

「はいはい…ってはあああ!?」



あの後僕は助けたお礼にと夕食を奢ることになった。(しかもテレビとか雑誌とかによく取り上げられる高級料理店だよ!あのアロハシャツ!家計のことも考えろ!)
まあ…そんなこともあったけど何はともあれ僕は助かった。(家計は思い切り苦しくなったけどね)
しかしこの時の僕はまだ知らなかったのだ、タケさんと関わった為これからこんな目に何度も遭うことになろうとは…。





END

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