第七話

イエスは言った。
お前は十三番目となり、後の世代の非難の的となり…そして彼らの上に君臨するだろう。
最後の日々には、聖なる世代のもとに引き上げられるお前を彼らは罵るだろう…

「同胞殺しの十三番機…GSU達の反乱鎮圧を命じられて、十三が九体のGSUを処理したんだろう?」

不意にそう言った鉄朗に、十三は驚いて振り返る。

「…お前、何処でそれを…」

心臓が、止まりそうだった。
知られたくなかった。
軽蔑されて、見限られるのではないかと思っていたから。
勝手な話だ。
深く親しくなる事は苦手だと言って、自分から他人を遠ざけて置きながら、いざ近付いたものが離れようとすると辛いだなんて。

「十三は後悔しているんだろう? 仲間達を裏切り、手に掛けた事を…。そして以来、己の為に力を振るう事を己で禁じた…それが自分の罪を償う、唯一の道だと信じて」
「…誰だ、お前にそんな碌でも無い事を吹き込んだ奴は」

呆れたような声を出しながら、十三は冷静を装って煙草を吹かす。
鉄朗が言う程、偉いものでも無い。
自分は罪悪感を押し殺す方法を探して、只逃げているだけだ。
本当に後悔しているなら、罪を償いたいと思っているのなら、とっくに脳神経を掻き切って、生命活動を停止していた筈だ。
終戦を迎えてなお醜く生にしがみついているのは、機械では無く人として生きたいという、自分の願いを叶えたいからに他ならない。

「僕は、テロに加担していたんだ! コルトが死んだのも、他の大勢の人達が犠牲になったのも、僕が原因かもしれないんだ…!!」

鉄朗が、悲痛な声で吐き出した。
唐突な罪の告白だった。
軽蔑されるかもしれない、見限られるかもしれない、そんな十三の想いが、脳裏に苦々しく蘇る。
そうは思っても、いずれ罪を抱えきれなくなるのが人間だ。
罪悪感に身を引き裂かれる前に、誰かに告白したいと思うのが、人の性である。

「それなのに、今の僕はベリューレンの犠牲になっている人達を助けたいと思っている。でも、もうわからないんだ。それが本当の僕の気持ちなのかどうか…こんな事なら、自分の過去なんて知りたく無かった…っ」
「知らねぇままなら、てめぇのした事が帳消しになるってぇのか?…知らねぇ事には、決めようがねぇだろう」

十三は咥えていた煙草を灰皿に押し付ける。
偉そうに、説教するつもりは微塵も無い。
自分がそんな立場に無い事も、わかりきっている。
十三は只、自分に言い聞かせるように言葉を続けた。

「大事なのは、知っちまった事に対してどういう選択を取るか…だ。お前は今、その選択をする機会を得た」

鉄朗が、十三の顔を真っ直ぐ見詰めて息を呑む。
うんうんそうだな、可哀想にな、そう言って頭を撫でてやる事は簡単だ。
だが、そんな優しさは何の役にも立たない。

「てめぇの価値は、てめぇが決めろ」

そう言って、十三は彼方へ想いを馳せた。
たとえこれが自分の醜い業だとしても、彼女に知られたくなかった。
自分は、この手に乗る以上のものが転がり落ちるのを、止める術は無いのだから。


**

EMS…復興庁、拡張者対策局。
面会を申し出て通された先、此処で待つようにと言われたソファに腰を下ろす。
揚羽の手の中には、先日渡された名刺。
相手は随分忙しい人らしく、待たされて既に三十分が経つ。
困った事があったら連絡しろ、そう言われた言葉を鵜呑みにして来たのが不味かったかと、揚羽が後悔し始めた時。

「早速乾に泣かされたか?」

そう揶揄しながら現れた、クローネン・フォン・ヴォルフ、その人に見下ろされ、揚羽はきゅっと拳を握り締める。

「お借りしたハンカチを返しに来ました。あと、貴方に教えて頂きたくて伺いました…GSUについて」
「…」

真っ直ぐ見詰めながら言った揚羽に、クローネンは険しい目元を更に鋭くし、眉間の皺を深くする。

「一般人に教える話では無い」

そう答えたクローネンは、ふいと素っ気無く身を翻し、そのまま歩き出す。
揚羽は慌ててその後を追うと、クローネンの片手を掴んだ。

「待ってくださいっ、あそこまで話しておいて、それは酷いです!」
「その様子では、乾には教えて貰えなかったのだろう。当然だ、自分の悪行を話して聞かせたい筈は無いからな」
「…っ、わかってます、でも…」

そう、十三は何も教えてくれなかった。
十三が話したがらなかった事を本人の居ない所でこそこそと、クローネンから聞き出そうなんて本当は良くないとわかっている。
しかし、十三が教えてくれなかったからといって、知らないままには出来ない。
拒絶されたからといって、そのまま大人しく引き下がるつもりも無い。
自分で知って、それからどうするか決めれば良い、そう思う。

「私は、あの人が好きなんです。私は知りたい…あの人の苦悩を、葛藤を…」
「知る事で、痛みを伴うとしてもか?」

クローネンが聞いた。
この先にどんな真実が待ち受けているかなど、わからない。
それでも、

「人は、痛みに慣れるものです」

そして癒えない傷は無い。
悔しいのは、揚羽には十三がどんなに血を流し苦しんでも何もしてあげられない事だ。
身体の損傷さえ、治してあげられない。
医者の免許なんて、十三に対しては何の役にも立たない。
思わず拳を握った揚羽に、クローネンは溜息を一つ落とした。

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