もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ






side:文次郎


夜中
俺がいつものように鍛錬をしていると、いきなり声が聞こえた
俺はすばやく声を出すと、茂みから出てきたのは二匹の狼だった


「狼・・・?」
【ねえ、声が聞こえるの?】


先ほどの声だ
けれど、あたりを見回しても人影はない
この場に居るのは俺とこの狼二匹だけだ
ためしに、俺は話しかけた


「お前がしゃべっているのか?」
【うん、私子狼なの】


そう答えた狼に、俺は信じざるを得なくなった
人から聞いたものならば、信じなかっただろう
けれどこの眼で見て、聞いたことを信じないということはできなかった
俺はそうか、と言ってその子狼の頭をなでた
子狼は目を細めてくるると喉を鳴らした


「お前らは学園の狼なのか?」


俺がそう聞くと、大人の狼が鼻を鳴らした
・・・何かいったのか?俺には聞こえなかったが・・・
すると子狼のほうが何かに気がついたのか、俺に話しかけた


【お母さんの声は聞こえないの?】
「何か言ったのか?」
【うん、私たちは学園の狼じゃないよって】
「そうなのか・・・俺には聞こえなかったな、聞こえるのはお前だけのみたいだ」


どうやら、子狼のほうだけ聞こえるらしい
子狼が特別なのか・・・?
そう思っていると、子狼が名前を教えて、といってきた


「俺は・・・潮江文次郎だ」
【文次郎ってよんでもいい?】
「あぁ、構わんが・・・お前に名前はあるのか?」


学園の狼ではないなら野良だということだろう
どうやって入ったのかは知らないが
大人の狼のほうがわふ、と言った
すると子狼のほうが私もお母さんも名前はないよ、野良だもん、と言ったので、俺は少し考えて


「・・・そうか・・・じゃあ、お前の名前は壬琴でどうだ」
【壬琴・・・私の名前?】
「あぁ」

どうせ学園に住み着くのだろう、ならば名前があってもいいんじゃないかと思い、俺はそいつを壬琴と名づけた
親のほうは竹谷にでも名前をつけさせればいいだろう
余程嬉しかったのか、子狼・・・壬琴は俺に飛びついてきた
俺はさして体の大きくない壬琴を受け止めてやった



不思議な出会い






―――――
題名がトトロのようだ・・・・!



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