もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ








食満くんにあって、この時代に彼らが居るのだと知った
そして記憶を引っ張り出せば、やけにきゃーきゃー騒がれていた人たちが居たと思い出す
その顔は、むこうで見た顔と変わりなくて
思い返せば、私と壬琴を見ていることも多かった気がする
私は、壬琴に悪い虫がつかないようにずっと警戒していたけれど
・・・そうね、潮江くんは、時代を超えた壬琴の恋人だもの、"悪い"虫ではないのよね
壬琴をたぶらかす虫であったことには変わりないけれど

私はそう思いながら、3年の階の廊下を歩いた
ざわりと喧騒で揺れる廊下の空気
けれど私の心はそれとは反対に静まりかえっていた



「立花仙蔵は、いる?」


教室内に問いかければ、立ち上がるその影
むこうで自慢だったであろう長い髪は姿を消したが、短くなってもそのサラスト具合は相変わらずのようだ
彼はこちらに歩いてきて、前に立つと、小さく笑んだ


「文次郎、来い」
「あぁ」


私が来たことで、既に何かを察したのか、仙蔵くんは潮江くんを呼んでくれた
私たちは連れ立って、人気の居ない場所へ向かった









「・・・私からすれば、久しぶりじゃないんだけど、でも久しぶり」
「そうだな・・・」
「お前は、記憶がなかったからな」


少しだけ気まずいように言うのは潮江くんで、その後に続くのは仙蔵くん
別に後ろめたさを感じる必要はないというのに、そんなに顔があわせづらいのだろうかと私は不思議に思った


「潮江くん、壬琴を、幸せにしてくれた?」
「幸せだと、言ってくれた」
「そ・・・なら、よかった」


私は安心して笑みを漏らした
大丈夫だと分かっていても、やっぱり当人から聞くのとそうじゃないのは違うから


「お墓の花とお線香、上げてくれたのも、潮江くん?」


そう聞けば、潮江くんは小さく頷いた
私はありがとう、と笑いかける
そして、私は仙蔵くんに向き直った


「私は壬琴に依存していた。だから、壬琴が大好きよ」
「あぁ、知っているさ」
「それはこれからも変わらないと思うの。それでも、貴方は私を愛してくれる?」


私がそう問いかければ、仙蔵くんは変わらぬその美しい笑みを浮かべた


「愚問だな」


一言
そう言われて、私は笑った





時を越えた返事








- 61 -