side:留三郎 ふらりと屋上に来た怜奈さんに、俺は話しかけていいものかと迷った 彼女は壬琴がむこうに行く前の人で、俺は壬琴が向こうに行って、その後の怜奈さんしか知らない だから、あんなに暗い表情をした怜奈さんを、俺は知らない もしかしたら、まだむこうに飛ばされていないんじゃないか、そんな思いがよぎる けれど、その表情は何か思いつめて そして、フェンスに近づいていく怜奈さんに、俺は嫌な予感がして、彼女の腕を取った 「危ないだろ!なにやってるんだよ、怜奈さん!」 「・・・・・・え」 驚いた表情を浮かべた怜奈さん けれどその表情には混乱も浮かんでいて、その後に怜奈さんが呟いたセリフに、俺は驚くと同時に少しだけ嬉しくなった 「・・・なんで・・・食満、くん・・・?」 「・・・怜奈さん、記憶・・・が・・・」 戻ってる この場合は、むしろ、むこうに飛んだ後だろうから、記憶ができた、のほうが正しいのだろうか 怜奈さんは、どういうこと、と聞いてきたが、俺が言うべきことではないだろうと、俺は視線をそらしていえませんと言った そして改めて怜奈さんを向く 「死ぬのは駄目です、貴方が死んだら、悲しむ人が居るから。もちろん、俺も」 怜奈さんは戸惑ったように、でも、とうつむいた 壬琴がいないと何もできない、と小さく呟いたのが聞こえた 確かに、室町の世で、怜奈さんはこれでもかというくらい壬琴にべったりで、文次郎がよくいらいらしていたものだ まあ、怜奈さんが帰ってからは二人が一緒に居るのは学園の名物になっていたが 俺たちが卒業するときに、文次郎についていったんだったな、壬琴は そのときに、俺たちに向けて言われた言葉がある それは、きっと後の世・・・平成と呼ばれるだろうその世に、もしも俺たちが記憶をもったまま生まれ変わっていたら、壬琴が死ぬことを助けないで欲しい、そして怜奈さんを支えて欲しいと それは壬琴にとって確信していたことだったのかもしれない 俺にはわからないが 怜奈さんに、壬琴が言っていたことを伝えて、幸せそうだったといえば、怜奈さんは涙をこぼした 俺はそんな怜奈さんに、こういった 「怜奈さんも、笑ってください。幸せに、なってください」 仙蔵と その言葉を、言うことはなかったけれど 繋ぐ優しさ → 戻 |