もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ








フェンスに近づいていくと、その少し手前で、私はぐい、と腕を引かれた


「危ないだろ!なにやってるんだよ、怜奈さん!」
「・・・・・・え」


振り返らされて、その顔を見て私は絶句した
どうしてここにこの人が居るのだろう
訳が分からない、頭が混乱していた


「・・・なんで・・・食満、くん・・・?」
「・・・怜奈さん、記憶・・・が・・・」


私が彼を呼べば、彼・・・食満留三郎くんは、驚いたような表情をその顔に浮かべた
私もびっくりだ、だってこの時代は平成で、彼らが生きるその場所は室町なのだから
けれど、食満くんの言葉に、私は引っ掛かりを覚えた


「きお、く・・・・?どういうこと・・・?」
「・・・俺からは言えません」


なぜだか辛そうに、食満くんは視線を外した
けれどすぐに食満くんは表情を険しくして、とにかく!と声を上げた


「死ぬのは駄目です、貴方が死んだら、悲しむ人が居るから。もちろん、俺も」
「・・・でも、私は・・・」


壬琴がいないと何もできない
壬琴を甘やかしていたのではなく、壬琴が私を甘やかしていた、居なくなってそれが良く分かる
私は本当に、依存とも言えるほど壬琴のことがだいすきだから


「壬琴は、多分分かってました。貴方が後を追いかねないと」
「・・・なら、追わせてよ・・・っ」
「最後まで聞いてくださいよ、怜奈さん・・・壬琴は同時にこうも言ってたんですよ、むこうで」




 きっと、壬琴ちゃんは私のことで気に悩んでるはずなの。
 でもね、私は"こっち"で怜奈ちゃんに幸せにしてもらったから、
 怜奈ちゃんには"むこう"で幸せになって欲しい。
 もしも未来・・・ううん、"むこう"にみんなが居て、もしも怜奈ちゃんがいたら・・・
 みんなで、怜奈ちゃんを支えて欲しいの
 きっと、その場所に私も居るんだろうけれど、こうやって幸せが待っているのなら、
 私は死ぬことは怖くないから
 ね、約束して?




「・・・壬琴・・・」
「幸せそうでしたよ、壬琴。文次郎っていうのは気に入らないけど、それでも、幸せそうに笑ってました。最期まで」


だから、怜奈さんも、笑ってください
幸せに、なってください

そういった食満くんの顔は、穏やかで、優しかった




時代を超えた優しさ









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