もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ









怜奈ちゃんが消えた
私は唇を噛みしめて下を向く
ぷつり、と唇の皮が切れる音がした
そして口の中にじわりと広がる鉄の味


「壬琴・・・」


文次郎が小さく私の名前を呼んだ
私は顔を上げない
小さくため息が聞こえて、腕がひかれる
ぽすり、と音がして、文次郎の腕の中におさまる
そしてそのまま抱き上げられた


「落ち着かせてくる」
「あぁ、行ってこい」


文次郎と仙蔵の短い会話の後、私は文次郎に抱えられたまま食堂をでた



―――――
side:文次郎



誰もいない会計室の前の廊下
抱えてきた壬琴を降ろそうとした
けれどその手は外れずに俺の服をつかんだまま
壬琴はぽつりと呟いた


「・・・もう、会えないんだよね・・・」
「・・・そうだな」
「居て欲しかったって思うのは、ただのわがままだって分かってるんだよ」


でも・・・ともらして、震える壬琴
きっといま、彼女の瞳は濡れているだろう
俺は少し強引に壬琴を降ろして


「・・・・・・!?」
動揺する気配がした
息が苦しいのか、胸を叩いてくる
離れれば、壬琴は荒い息を吸った
「文次郎・・・」
「絶対に、俺は居なくならないと約束する、だから・・・」


言い切る前に、壬琴は俺に顔を押しつけるようにして抱きついた
くぐもった声で、壬琴は言う


「怖いの、大切な人が居なくなるのが、大切な人に迷惑をかけるのが、怖いの・・・臆病なの・・・っ」
「それが普通だ、気にする事じゃない」


壬琴は声なく頷いた





そして満月に照らされた影は
気持ちを伴って、一つになったのだ





狼の気持ち!









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