side:仙蔵 「・・・それは、本当か?」 「今も体が軽い感じがするから・・・きっと私を抱き上げてみれば分かるんじゃない?・・・冗談よ、仙蔵くんの肩に私が手でも置けばすぐ分かると思うけれど」 置いてみる?と聞いてくる怜奈さんの表情はいたって普通で どう見ても、これから世界から消えていなくなる人とは思えなかった それほどに、想いが強いということなのだろうか? 私は怜奈さんの体を抱き上げた 「う、わ・・・!せめて一言声かけてくれないと驚くじゃない・・・」 「・・・軽い、な」 「・・・でしょ?」 何も言わずに抱き上げた私に、少し怒ったようだったが、確かめるように私が呟くと、怜奈さんはふふっと笑った 本当に、これから消える人には見えない 「壬琴には言ったのか?」 「言ってないわ。私が消えるときに、あの子が幸せになれるように最後の発破をかけようかと思って・・・。そのために、私が消えながら言うって、相当な演出だと思わない?」 「・・・・・・・」 本人は笑っているが、私としてはあまり賛成できなかった むしろ、怜奈さんが居なくなることによって、壬琴は本当に怜奈さんの住む世界とのつながりがなくなる それに・・・・・・ ・・・・・・いや、これはやめておこう とにかく、反対に壬琴にはきついのではないかと感じた 「壬琴はこの間立ち直ったばかりだろう?大丈夫なのか?」 「伊達に18年間壬琴と一緒に居んだもの、あの子だって、私のことは分かってる」 くすくすと笑うその顔に、未練はなかった ――――― side:怜奈 「・・・怜奈ちゃん?どうしたの・・・?」 「あぁ、気にしないで。ちょっと探し物してたら結構いろいろ出しちゃって・・・。壬琴は先にいってていいよ」 「・・・うん、じゃあ、お言葉に甘えて先に行くね。ちゃんと来てね」 夜になって、私はこの時代で買ったものをみんな一箇所に集めた 途中で壬琴がきちゃったのはちょっと誤算だったけど・・・でも、あんまり気にしなかったみたいでよかった ・・・私が、壬琴・・・ううん、××と一緒にすごしたって言う、証 それくらいは、持って帰らせてくれてもいいでしょ? すべてとは行かなかったけれど、こちらの世界で買ったいろんなものを、一緒に落ちてきた学生カバンに詰め込んで 荷造り完了・・・・・・この部屋から、世界から、私は居なくなる 「・・・っ・・・」 そう考えたら、ぽろりと一粒涙がこぼれた いろんな思い出が思い返される 壬琴と一緒に学園長先生に頼んでこの学園においてもらったこと、二人でお菓子を食べたこと、壬琴が手伝ってる会計室に夜食を持っていって帳簿にちょっとこぼしちゃって怒られたこと、それを壬琴はこれくらいならすぐにまたできるからと笑って許してくれたこと、壬琴と一緒に誘拐されて、壬琴に助けられて、潮江くんと竹谷くん、あと白銀さんと蒼くんで壬琴を助けにいってくれたこと、潮江くんと壬琴をくっつけようとして仙蔵くんと仲良くなったこと、それから・・・・・・――――― 「・・・怜奈さん?」 仙蔵くんの声がした もう、こちらのものを満足にもてないほどに軽くなった私の変わりに、荷物を持っていってくれると来てくれる様に頼んだから 私は出てきそうになる涙をこらえた 大丈夫、私は悲しくない、幸せだった、だって死んだ壬琴に会えたし、たくさんの人によくしてもらったんだから 鏡はないけれど、きっと笑えてるはず・・・私は障子を開けた 「来てくれてありがとう、仙蔵くん。それが荷物だよ」 「あぁ、分かった」 仙蔵くんが荷物を持つために部屋に踏み入った すぐに持っていってくれるものと思って居たそのとき、私の体は引き寄せられた 目の前には、仙蔵くんの着た忍服の深緑色が広がっている 「泣きたいときは泣けばいいさ・・・もう、会えないのだから」 「・・・ううん、いいの・・・私は壬琴がむこうで死んだときにいっぱい泣いたから・・・2度目のお別れは、笑顔がいいから・・・」 仙蔵くんは、そうか、とだけ呟いて、私を放してくれた 彼は何もなかったかのように荷物を持って私を促した 廊下に出ると、月が明るく闇を照らしていた さようならはすぐそこに → 戻 |