もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ






side:怜奈


ある日、私は違和感を感じた


「・・・?」


体が軽い
疲れがとれた軽さとかじゃなくて、体重が軽くなったような、そんな軽さ


「どうしたんだい?怜奈ちゃん」
「え?あ、何でもないです、ごめんなさい、おばちゃん」


包丁が止まっていた
私は気にしないように努めて、夕食の支度を再会しようとした
そして違和感に気づく
包丁が、動かないのだ
別に包丁がまな板に突き刺さった訳じゃない
包丁が、重たいのだ
いつも通りの力を入れてもぴくりとしない


「本当に、どうかしたかい・・・?」


おばちゃんは心配そうに私を見た
けれど、私はそれどころじゃない
どう言うこと?
さっきまで普通に包丁を持てたのに
さすがにおばちゃんは何か感じ取ったのか、私に今日の手伝いはいいと言って、帰してくれた

私は自分の部屋の前で、じっと手を見つめた
そして、ふと目に付いた地面の小石を拾い上げようとする
その小石は、大きな石のように重く感じられた


「・・・私の力が、入らなくなってるって言うことなの・・・?」


そうして思い出すのは、私がこの世界の住人じゃない事実
すなわち・・・


「私は、壬琴の居ないあの世界に、帰るって事・・・?」


呟いて、私は怖くなった
壬琴は、死んでこちらに来たから、こっちから消える事なんてない
優しい忍たま達に囲まれてこれからも生きるんだろう・・・
でも、それがきっと、壬琴幸せのはず
・・・なら、私がすべき事は・・・


「もっと幸せになって貰うために、壬琴には潮江くんとくっついて貰わなきゃね」


私はくすりと笑った
そうと決まれば善は急げ
仙蔵くんに相談してみよう

私の帰るその時さえ、壬琴の幸せのために使ってあげるわ!
だって、壬琴は大切な幼馴染みで親友だもの!



天女様は永遠にあらず









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