もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ










「文次郎、最近壬琴と話したか?」
「唐突だな・・・手伝いに来る事はないが、ふつうに話すぞ」


私が話しかけると、文次郎は不思議そうにそう答えた
余程そういうことに疎いのか・・・それとも壬琴が気づかせないのか・・・
私はふっとため息をついて文次郎を見た


「そうか、まぁおまえがそう思うなら深くは言わないがな・・・」
「・・・壬琴に何かあったか?」


私の言葉に文次郎はぴくりと眉間にしわを寄せた
私はふふと笑った


「いや、近くにいるお前が何もないというなら無いのだろうよ、私の見間違えだろう」


文次郎は腑に落ちない不満げな顔であったが、私が話さないだろうことを感じたのか、そうか、と一言だけ言った
種は蒔いた・・・後はおまえ次第だぞ?文次郎
私は聞こえないようにそう呟いて笑った



―――――
side:文次郎



壬琴の様子がおかしいのか
仙蔵の意味深な言葉だと、そう取ることができる
少し気になると、仕草や様子を気にするのが人間と言うもので、俺は壬琴の様子を注意してみるようになった
すると気がついたのは、壬琴の行動が何かに怯えたような、そんな行動があるように思えたこと
笑い方もぎこちないし、溜め息も多い
明らかに壬琴の様子はおかしかった


「壬琴」
「文次郎ー?どうしたの?」


掃き掃除をしている壬琴に話しかけると、振り返った壬琴はきょとりとした顔でそういった
その顔はつとめて作っているだけか、それとも本当なのか
壬琴の顔に先ほどまで見て取れたかげりはなく、仙蔵に言われなければ気づかなかったかもしれないと感じた


「いや・・・最近、溜め息が多いみたいだったからな、何かあったのかと思っただけだ」
「・・・そんなに多かった?」


壬琴は困ったように笑って、心配をかけたいわけじゃなかったんだけど・・・と呟いた


「何か困ったことがあったなら言えばいい」
「うん・・・ありがとう、なんかお兄ちゃんみたいだね、文次郎」


お兄ちゃんとかいなかったから嬉しいなーと笑う壬琴に、壬琴にとって俺は狼の蒼と同じ立場でしかないのかといいそうになった
そして気づく
別に兄でもいいはずなのに、どうして兄じゃダメなんだ?俺は




はたと気づく









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