もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ









ふっと外に意識が行った

・・・お母さん?

口の中で、その言葉は声にならなかった
でも、なんだか外にお母さんがいる気がした
そして、蒼兄も・・・
人間の気配は分からないけれど、狼は、同属だからかな・・・?
でも、お母さんと蒼兄がいるって事は、少なくとも一緒にハチがいるはず、それなら・・・
幸いにして、手は前で繋がれていた

ぴぃっと、人に聞こえない音
お母さんと、蒼兄に、届いて・・・っ!

私は鋭く、短く、長く、短く、と交互に音を鳴らした
要するにSOS信号ってやつだ
ピィっと返答が来た
その音に、私は良かった、と心をなでおろした


―――――


ピィっと音がした
私と蒼くんはぴく、と耳を立てる
きっとこの音は壬琴だ
私はハチくんの服の袖を引っ張った
そしてピィっと鳴り続けるその場所へ誘導する


「ここにいるのか?」


いつにもまして鋭い視線の潮江くんは、壬琴が居るはずのその場所を見てそう言った
私と蒼くんは、静かに頷いた
幸いにして、周りに人影はない
潮江くんと竹谷くんは、頷きあって忍び込んだ
私たち狼は、そとで気配を殺し、周りの気配を探る・・・出来ることなら、無傷で・・・
私はそう祈ることしかできなかった



―――――



狼達と別れて、屋敷へ忍び込む
入り込んだ場所から少しした場所に、見張りのついた部屋
十中八九、壬琴が居る部屋だろう
黒須は壬琴が意識を引きつけている間に逃がされたといっていた
後からみたあの惨状ならば、見張りをつけられていても不思議ではない
むしろ、見張りをつけられた方が普通だろう

俺たちは屋根裏を伝い、見張りのつけられたその部屋の上にたどり着いた
板をずらして下を見ると、枷をはめられて座っている壬琴が見えた
他に誰もいないことを確認すると、竹谷と共に部屋の中へ降りたった


「文次郎?ハチ?」
「あぁ」
「助けに来たぜっ」


小さな声で問うて来た壬琴に、俺と竹谷は同じように小さな声で返した
ぴんと張りつめていた気がゆるんだように、壬琴はふにゃりと笑った
そんな壬琴に、俺はふっと笑うと、いつものように頭を撫でた
竹谷と共に音を立てないように注意して鎖を外し、来たときと同じように屋根裏を伝って外へ出た
にわかに屋敷の内部が騒がしくなったのを背に、俺たちは合流した狼たちと共に、そこを後にした




とらわれの姫を助けて









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