人攫いに連れてこられて行き着いた先は、街から程近い森の中の古いぼろ小屋 「壬琴・・・」 「大丈夫だよ、絶対・・・」 不安そうに名前を呼ぶ怜奈ちゃんに言葉を返して、私は怜奈ちゃんの手を握った それでも、それは虚勢で、私は不安で心が押しつぶされそうだった 狼のときならよかった、鋭い牙と爪があったし、走って逃げればきっと逃げ切れたから けれど今は人の身で、鋭い牙も爪も、早い足も無い 今はただ、知恵でどうにかするしかない せめて、怜奈ちゃんだけでも逃がさないといけない 周囲を見渡す 私たちが入れられたこの小屋の外には、気配が3つ 得物さえあれば・・・できないことは無いと思う、気配を殺して確実に急所を突け それは動物でも人間でも同じだから 問題は得物・・・私も怜奈ちゃんも、得物になるようなものなんて無いし、小屋の中にも無い 外の見張りは持ってるだろうけど、それを奪うまでに時間がかかればそれでアウト 私ができるのはあくまでも暗殺、それこそ、うめき声すら上げられないように暗殺しなければいけないから、余計に何度は高くなってる八方塞に、私は歯噛みしたくなった と、外の気配が変わった いくつかの気配が近づいてくる ・・・人買いの人間? これ以上人が増えたらどうしようもなくなる 私は本当にどうしようもなくなって、背後に怜奈ちゃんを隠すようにしてこれから開くだろう扉を睨みつけることしかできなかった ――――― side:文次郎 帰ってきてもいい頃になっても、壬琴が帰ってこない 門を睨みつけるように見つめていると、一年生の3人組が帰ってきた それも、なんだか不安そうな顔で 俺を見つけると、寄って来て、3人は聞いてきた 「壬琴さんと怜奈さんって、学園に居ますかっ?」 「僕ら似た人を見かけて・・・・」 「でも知らないおっさんと一緒にどっかいくのを見たんです!」 3人の言葉に俺は一瞬動きを止めた 最近、周辺で人攫いがあると言われていたはずだ 壬琴は忍狼としての訓練は受けていても、今は狼じゃないから、得物を持たない それにあの一般人も一緒ならば、余計に身動きが取れないはず 俺はぎりっとこぶしを握った 「そうか・・・わかった」 俺はそう3人に返して、きびすを返した 行く先は、学園長のもと そのこぶしが意味するものは → 戻 |