もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ








会計委員会を手伝った次の日
私と怜奈ちゃんはお休みをもらって、町へくり出した

しばらくたった今も、私は孫兵の着物を借りたまま
普段は事務員用の忍び装束を貸してもらっているけれど、普段着までそれを着るわけには行かない

怜奈ちゃんは向こうの身長のままだから、最初はハチに着物を借りてたけど、事務員じゃない怜奈ちゃんは私みたいに忍び装束を借りれる訳じゃなかったから、ずっと小袖じゃないといけなくて
ハチの着物をずっと着ているわけにはいかなかったから、食堂のおばちゃんが着なくなった着物を数枚もらって着回してるだけだった
とてもじゃないけど、それで十分とは言えなかったの





「わぁっ、凄いね!」
「うんっ、あれ、反物屋さんだよ、行こっ」


私と怜奈ちゃんはあーでもないこーでもないと言いながら、久し振りの買い物を楽しんだ




「おや、君たち、二人だけかい?」
「え?」


着物を買うことができた私達は、一休みしようと茶屋にいた
すると、やけに身なりの綺麗な男たちに話しかけられた
こいつ・・・服から微かに血のにおいがする
私は小さく怜奈ちゃんの袖を引っ張った


「ごめんなさい、お父さんを待ってるの。ね、お姉ちゃん」
「あ、そうなんです、ごめんなさいね」


怜奈ちゃんは私に話を合わせてくれた
けれど、こう言った以上どうにかして父親になりそうな人をさがさないといけない
私は通りに視線を走らせた


「どうしたんだい、お嬢ちゃん」
「っ!」


にたり、という笑いを浮かべて、男は私をのぞき込む
刃物の冷たい感触が、私の手に触れた
通りからは死角で、それは私達だけにしか分からないように


「一緒に来て欲しいなァ」


男は、私達にそう告げた


―――――
side:文次郎



「街に出かけた?」
「はい、着物なんかを買いに行くって言ってましたよー」


へらりと笑いながら、小松田さんはそう答えた
嫌な予感がして、けれど根拠のないその予感に、俺はどうすることもできずに、ただ無事に帰ってこいと呟くことしかできなかった




その願いも空しくて









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