もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ









「文次郎っ」


名前を呼ばれた
振り返れば壬琴が居て、視線を合わせれば壬琴は少しだけ不安そうな顔になった


「どうした」
「あ・・・うん、その・・・今日、会計の手伝いに行っても良い?」

何をそんなに不安げになったのかは分からなかったが、俺はいつものように壬琴の頭をなでた


「何を不安になってるんだかしらないが、手伝いは歓迎だ、最近徹夜続きであいつらも疲れてるからな」
「その・・・怜奈ちゃんのことで、文次郎怒ったかなって思ったから・・・もっと早く手伝いに行けば良かったよね・・・」


しゅんと落ち込んだように肩を落とした
俺はそんな壬琴に気にするな、そのかわりに今日がんばってくれれば良い、と言って、もうひとなですれば、壬琴は狼の時と同じように目を細めた



―――――
side:仙蔵



朝に比べて文次郎の機嫌が良くなった
それは私だけではなく、下級生などにも分かるほどで、明日は雨なんじゃないかと噂されるほどだ
私は一応文次郎に声をかけた


「何かあったか?」
「何でだ」


私が聞けば、文次郎は少々不思議そうに聞き返してきた


「いや、最近ずっと苛ついていたのに、今日はそれがないと思ってな」


それで、どうなんだと促せば、文次郎は頬を少しゆるませて、早く会計が終わるかもしれないからな、と答えた
ようするに、壬琴が手伝いに行くということのようだ
素直に嬉しいと言えないのだろうな、むしろこいつは気がついていないんだろう
壬琴は親愛なのか恋愛なのかわからん部分があるからな、まあ見ている分には楽しいことこの上ないものだ

私は薄く笑って、そうか、良かったなと言えば、文次郎からはああとかえってくるだけだった
まったく・・・わかりやすい奴めとそう心の中で呟いた



傍観者はしずかに笑う









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