もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ






side:仙蔵


最近文次郎の苛つきが半端ない
原因は分かっているのだが・・・


視線をすいとその原因に向けた
そこには、壬琴と怜奈さんが座り、笑いながら食事をしていた
狼の時は文次郎を見つければ尻尾を大きく揺らして全身から嬉しいやら楽しいやらを表現していた壬琴が、怜奈さんが来てからは文次郎に見向きもしない
会計の手伝いにも行っていないようで、徹夜の日々が続いているらしく、文次郎のクマはいつにも増してすごい事になっている
倒れたら笑ってやろうと心に決め、私は文次郎にちょっかいを出すのだった



―――――
side:壬琴



私も怜奈ちゃんも学園に害がないと判断された後
私は事務の仕事にも慣れて、空いた時間などはこの時代の勉強をすることが多くなった
文字を読んだり書いたりするのができない怜奈ちゃんに文字を教えて、私も読めない字は手の空いている先生に教えを頼んだり
充実した毎日と言うのは、こんな日々を言うのかなーとかも思う


・・・会計の手伝いは、行っていない
怜奈ちゃんのことで、きっと文次郎は怒っただろうから・・・
合わせる顔がないって言うのかな、そうとう気まずい
それに最近イライラしてるみたいだから、近寄りがたいんだよね・・・

ちらりと、視界の端に映る緑の影を見た
今日もなんだかイライラとしていて、話しかけられるような雰囲気じゃない
と、隣の人と視線があった
・・・立花さんだったかな、その人は私に意味ありげに笑うと視線をそらした
・・・何だったんだろう?


「壬琴?」
「え、あ、ごめんっ、なんて言った?」
「聞いてなかったの?今度おやすみくれるから、いつまでも借りてるのはまずいし、着物買いに行こうって言ったんだよ」


私は怜奈ちゃんに呼ばれた声で立花さんから目をそらした
そしてちょっとむくれる怜奈ちゃんをなだめて、そうだね、と相槌をうった




ある意味のすれ違い








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