私はくいっと袖を引っ張られた そちらを向けば、団蔵で 私は首を傾げてどうしたの?と聞いた 「壬琴はもう会計に手伝いに来ないの?」 「忙しいときは手伝いに行くよ」 私はわらってそういうと、まだ自分よりも低い位置にあるその頭をなでた 「さてと、私は届け物をしないといけないから、行かないと。また今度一緒に遊んでね」 は組のみんなはーいっと声をそろえて返事をすると、どこか別の場所へ向かっていった 私はその後ろ姿を見送ると、気を取り直して職員室に向かった 私が書類を届けた後、事務室に帰れば吉野先生に小松田さんが怒られているところだった 「全く君という人は・・・っ!」 「す、すみません・・・あれ、壬琴さん、いつの間に帰ってきてたんですか?」 小松田さんが私が居るのに気がついて、声をかけてきた 吉野先生もこちらをむくと、帰ってたんですね、お疲れ様ですとさっきまで怒っていたのを感じさせない穏やかな顔だった 私はその変わりように少々面食らったものの、いえ、とだけ返して、他に仕事などありますかと聞けば、吉野先生は今日はもう大丈夫ですよと言ってくれた 初日だからと考慮してくれたみたい 私はお言葉に甘えさせてもらって、ありがとうございますと頭を下げると食堂に向かった ――――― side:怜奈 ××・・・今は壬琴だけど、壬琴と私は家が隣同士の幼馴染で、生まれたときからずっと一緒だった 高校も別々に決めたのに、なぜか一緒で、似たもの同士だねって親にも呆れられてたくらいに一緒だった そんな壬琴が死んだって言われて、私は信じられなかったの 学校で壬琴の机の上に菊の花が置いてあるのを見るたびにつらかった 親にも、壬琴の両親にも心配されるくらい憔悴して、とうとう学校に行けなくなった そんなときに、ふっと意識が途切れて、気がついたらこちら側に飛ばされて 偶然なのか、必然なのかわからないけれど、壬琴を見つけて、壬琴とまた一緒にいられることが凄く嬉しかった 私は壬琴の計らいで、食堂を手伝わせてもらうことになった 「黒須怜奈です。よろしくお願いします」 「怜奈ちゃんだね、よろしく。早速なんだけど、手伝ってくれるかい?」 「はいっ」 よろしくお願いします、と私は頭を下げた 久々に握る包丁に、いつ振りだったかなぁと考える 壬琴は呆れるぐらい料理が下手だったから、その代わりに私が両親たちが旅行に行ったときにご飯を作ったりしていた 壬琴も私のご飯を美味しいといってくれていたから、進路は料理学校に行こうと思って、毎日包丁を握っていた 壬琴が死んでからは、包丁ももてなくなってしまったけれど 「怜奈ちゃん、包丁の使い方上手だねぇ」 「あ、ありがとうございます」 食堂のおばちゃんにほめられて、私は照れくさそうに笑った 上手いとかそういうのは、壬琴ちゃんか両親にしか言われてなかったから、他の人から言われるとなんだか照れる 私が切って、おばちゃんが調理する、そんな分担をしてやっていたら、いつの間にか今日の夕食が出来上がっていた 味見をさせてもらったけれど、おばちゃんの料理はとても美味しくて、私はまだまだ修行が足りないんだなと思い知らされた 「怜奈ちゃんが居ると仕事が早くて助かるわねぇ、これからずっと居てくれるのかい?」 「それはわからないんですけど・・・居られるときまでは居たいと思います」 おばちゃんからいろいろ教わりたいです、と笑えば、嬉しいねとおばちゃんも笑ってくれた 奇跡にも似たそれは偶然? → 戻 |