もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ






side:文次郎



【どうして!】


一言聞こえたその言葉に、たくさんの想いが詰まっている気がした
そして今なら、とも思った俺は鋭く名前を呼んだ


「壬琴!」
【・・・・・・もんじろー・・・・・】


疲れたように返ってきた俺の名を呼ぶ声
竹谷は呆気にとられたように目をぱちぱちとさせて、クナイを下ろした
赤くなった目はいつもの空色の目に戻っていた


―――――
side:壬琴


文次郎に名前を呼ばれて、私ははたと目が覚めたように、視界がクリアになった
私はなんだか疲れていた
怖い顔をしていたハチも文次郎もどこにもいなくて
文次郎が私のそばに来て目線をあわせてくれた


「血だらけだな」
【だってひところしたんだもん】
「あぁ、知ってるさ・・・おかえり」
【・・・ただいま!】


きっと、私が血濡れじゃなかったら、文次郎に飛びついていたかもしれない
けれどそれくらい、私はおかえりと言われたことが嬉しかったんだ



ハチに水をかけられ血を洗い流してもらって、私はふるふると体を振って水気を飛ばした
毛がたくさんだと毛が肌に張り付いて反対に気持ち悪いんだね
洗ってあげると気持ちいいのかなーって思ってた私の認識は甘かったようだ
まあ、水は気持ちいいんだけど・・・
綺麗になってから、私は小屋に戻った
心配そうにお母さんが私のそばに寄ってきた


【大丈夫だったの?】
【うん、平気だよ】


そう、とお母さんはその言葉に安心したように笑って、私も笑い返した
眠りにつくとき、とくり、と体が疼いた気がしたけれど
そんなに気にならなかった私はすぐに眠ってしまった




それはその後にある
 出来事の始まりの音だった








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