文次郎が後ろから追いかけてくる いくら狼だと言っても、まだ子供の私は文次郎を振り切れない はかったように目の前には壁が見える 私はぐっと足に力を入れてジャンプした ふわりと壁の瓦の上に着地すると、そのまま長屋から遠い場所に向かって走る 文次郎はそれを下から追いかけてきて、私はそれをちらりと広くなった視界で見た そうして、誰もいないその場所で、私は足を止めた 後ろで文次郎の走る音もとまって、歩いてくる音が聞こえる 私はくるりと文次郎に向き直った 「追いかけっこは終了か?」 問いかける声に私は返さなかった すっと瞳を細めて、文次郎は私を見た 「それで、どういうことだ?とまったということは、話してくれるということだろう?」 【・・・信じてくれる?・・・後悔しない?】 「内容にもよるがな・・・壬琴と名前をつけて最初にここに置いたのは俺だ、なら最後まで付き合うのも俺だろう?」 ふっと笑い、なにを言っているんだ、という感じで文次郎はそういった 私は少しだけ文次郎から視線をそらした そして、決意を固めると、文次郎の顔を見つめた 【あのね、私・・・もっとずっと先の未来で、私は死んで、血がたくさん流れてたのが私の最期の記憶だったの。それで、暗くて温かい場所にいたのが私の最初の記憶】 その後しばらくしてから、起きたら目の前にお母さんがいて、私は狼だった きっと自我が生まれるくらいに私は私として狼になったの だから、私の意識は人間なんだよと、私はそう文次郎に言った 文次郎は少し考え 「・・・つまり、元々人間だった壬琴にとって、人間を殺すということは、抵抗があるということなんだな」 【うん・・・・狼が肉食なのは知ってるし、それは仕方ないと思うけど・・・でも人間を食べるって言うのはまた別で・・・っていうよりも、むしろ生きたままのモノを目の前で殺して食べるっていうのがどうしても無理なの】 忍狼がこれじゃ駄目なのは分かってるんだけど、としゅんとうなだれる 【私は人間だった頃の私を忘れたくない・・・けど、この忍術学園にいるためには役に立たないといけないから・・・】 「お前が人間だったら一番手っ取り早かったんだろうけどな・・・」 【うん・・・でも、私狼だから・・・】 文次郎は困ったようにため息をついた 解決できない問題 → 戻 |